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短編小説・交換日記はいかがです6

短編小説・交換日記はいかがです6


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あくる日の午後、古都留美湖は、簡単な昼食を済ませた後、私服に着替えていた。
何を持って行っていいものやら、さっぱり見当がつかない。
思案の挙句、何も持たずに出掛けて行くことになった。
玄関を開けて入る。
「九条さん、どうして私に会いたいというんですか」。
つっけんどんに言ってみる。
「ハイ、とても会たかったですよ」。
喜一郎は、笑顔で答えた。
「私は、会いたくなかったんですけれど」。
「私は会いたかった。それでいいんじゃないですか」。
「あんたなんか、大嫌い」。
と強がりを言ってみる。
「私は貴女と、唯、詩心を語り合いたかったから」。
と喜一郎。
「詩、詩ですか」。
と念を押す留美湖。
「そうです。例えば、島崎藤村や、石川啄木、北原白秋など、詩歌の世界です」。
「やわらかに、柳青める北上の」。
と留美湖は歌いだす。
「岸辺目に見ゆ、泣けとごとくに」。
と続けて二人は合唱した。
「でも、今どうして、詩なんですか」。
「私が、詩歌以外に、素養が無いからです、唯、それだけのことです」。
「えらく、簡単に言いますねえ」。
留美湖が持っていた、妙な期待は、完全に外れたのである。
留美湖にはどうして、詩歌の道を究める必要があるのか、理解できない。
況して、今の私に、何の役に立つというのだろうか。
「此処に通う理由が分かりませんねえ」。
と留美湖。
「何の役にも立たい。そう、考えているのでしょう」。
留美湖の心を読み取るように言うのである。
「今、直ぐに、貴女の為に成らない事を、遣ってみる。そんな、回り道があっていいと思う」。
と喜一郎。
「分からない」。
「晶子先生から、貴女の話を聞いた時、貴女の心の奥にある激情が、詩歌の世界に向いている。そんな思いに駆られたのです」。
「怒りや、強がりが、何になると言うのですか」。
と留美湖。
「貴女は、与謝野晶子を知っていますか」。
「よく、知っています」。
「内なる激情は、恋愛感情を高揚し、それが、やがて、詩歌や、文化を愛おしむ心を育ることが、多々あるのです」。
「私って、大恋愛をするタイプなんですか」。
留美湖は、苦笑いをした。
「そういう、捉え方も、あっていいのです。大恋愛をする人は、心の奥底に、激情を抱いているタイプなんです」。
喜一郎は、ほほ笑みえを交えて相槌を打つのである。
喜一郎は、確信を持った。
留美湖の、内なる激情は、詩歌への、素養、素質と成って大成への大きな力になってくれるであろう。それは、まるで心音でも聞くように知ったのである。
留美湖も、喜一郎の笑顔の中に、自身の未来を見たのである。
「先生」。
「喜一郎さんでいいですよ」。
二人は、美味そうに、ホットコーヒーをのんだのである。

佐和湖が、再び九条家を訪れたのは、梅雨の晴れ間の、青空を愛おしむような、外出日和の午後のことだった。
庭先の、紫陽花の花が、もう盛りを失いつつある色に染まっている。
九条家といっても本宅はない。喜一郎は、別宅だった所を、自宅として使っている。
戦時中、九条節子は(大正、皇后)は戦病軍人や、戦病人や、らい病人の求救のために、財産を投げ出しているから、最も没落した貴族といってもいいだろう。
それでも、喜一郎が、和歌を愛し、詩歌を愛し、日本の文学こそ、世界の最高峰に位置するとまで、そう語るのは、(和歌の九条)と謳われた、名こそ惜しむ、気概なのであろう。「先生」。」
「先生は止めてください。喜一郎さんでいいんです」。
「アドバイスを求めにきました」。
佐和湖の言葉には、まだ余裕というものがない。
喜一郎は、深呼吸をした。
「喜一郎さんから、色々と為になる意見を聞かせて頂きました。本当に有り難く思っています」。
「娘の留美湖さんも、わたしの所へ通うって来てくれています」。
喜一郎は念を押すように言った。
「そうなんです、そうなんですけれど、何故か、娘の心が読みきれなくて」。
「娘のことなら、何でも知っていたい、分かっていたい。そう考えているのではないでしょうか」。
と喜一郎。
「ハイ、多分そうだと思います」。
佐和湖は小さな声で言った。
「それは、親のエゴです。今一番大事なことは、娘さんが背負っている、重い荷物を、貴女も半分背負ってあげる。共に苦しんであげる。そう云う、心を持つことです」。
喜一郎は厳しく叱った。
佐和湖、「どうしたら」。
後の言葉が続いてこない。
「良き、相談相手になること。理解してあげること。安心させてあげること。それは、母親にしかできません」。
佐和湖は、目頭をハンカチで拭いた。
「喜一郎さん、やっぱり教えて頂かなくては」。
「うーん」。
喜一郎は暫らく思案していた。
「そうだ」。
そう言ってから、手を叩いた。「交換日記はいかがです」。
「交換日記ですか」。
「はいそうです」。
留美湖といえば、元々内向的で、交際が苦手な処がある。
会話を愉しむというよりは、音楽や、詩歌を静かに聴いて愉しむタイプである。
「言葉で表現できない思いや、胸のうち、そして、苦悩など、交換日記なら、少しづつ分かってくるのではないでないでしょうか」。
佐和湖に、少し笑顔が戻ってきた。
「そうだと思いますは」。
「最初のうちは、短い文章でも、絵でも、和歌でも、詩でも構いません。喜んで、付き合って下さいね。この、喜んで付き合うことが大切なんです」。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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