スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

短編小説・交換日記はいかがです1

短編小説・交換日記はいかがです1

喜一郎は仏様の前に端座して、お経を上げていた。
朝は、祈りと共に始まり、夜は、祈りと共に迎える。
九条家の古式(法式)、そのままに、唯、唯祈りを込め、今はこの世にいない、亡き妻の、由香里を追善するのである。
祈りのなかで何を得たというのであろう。
愛した由香里と、会話でも出来たというのであろうか。
亡き妻は、姿こそ見えないが、何時も、そしてどこに居ても、愛する夫を見守っているのである。
常に仏様の、慈悲に守られて存在することを、悲願としている家系なのである。
さて、今日は亡き妻の、命日である。
一人で迎えた三回忌であった。
今更ながら、妻と二人で詩作に励んだ日々が懐かしく思えてくるのである。
妻、由香里は、勝気であった。それ故に、情熱の歌人と、語られた。
喜一郎は、物静かで、おとなしい性格ではあったが、内なる魂は、それは、純愛そのものだった。(愛に生き、愛に死す)、そんなタイプの、詩歌人である。哀愁の詩歌人と語られているが、それは、喜一郎の、別称といってもいいのではないだろうか。

「先生」。
玄関の方から、声が聞こえてきた。
誰だろう。
「先生、赤舟です。上がっても良いですか」。
続いてもう一人の来訪者があった。
「先生、登美子です。上がっても良いですか」。
誰にも知らせてない、一人だけの三回忌だったはずなのに。喜一郎は驚いた。
登美子は上履きに履き替えて、座敷のほうに向かった。
「登美子さん、それから赤舟さん。どうして」。
「お世話になった奥様の命日を忘れることなどありませんわ」。
登美子は、引き出物をさしだした。
「俺も、奥様にはよくしていただいたから」。
赤舟は礼服の上着を脱いだ。
「先生、お茶でも入れましょうね」。
勝手知ったる台所である。登美子は段取りよく、準備に取り掛かった。
「忙しいだろうに、よく来てくれたね」。
喜一郎は、丁寧に頭を下げた。
「先生、一言言ってくだされば良かったのに」。
登美子は笑顔で答える。
赤舟は姿勢を正した。
「先生」。
「歌集を出したいということですね」。
と喜一郎。
「ハイ、登美子さんとも相談したのですが、もうそろそろ歌集を出してもいい頃ではないかと思いまして」。
頭を欠いている赤舟。
喜一郎はうなずきながら、
「そうだね、一区切りだね」。
「有り難うございます」。
赤舟も登美子も頭を下げた。
喜一郎は言葉を選ぶように、
「これを機会に、新しい分野に、挑戦してみるとか、革新の風を吹かしてみるとか、色々やってみようではないか」。
脳裏に浮かぶのは、俳句の、正岡子規のことであろう。俳界の帝王は今も輝いている。
赤舟は、喜一郎の、詩歌に対する情熱は、只事ではないと感じたのである。
「先生、これを区切りに、和歌の奥深さを極めていきたいとおもいます」。
「先生が、私にも言っていたことですね」。
と登美子。
和歌も、俳句と同じで、常に革新の風に晒されるものなのであろう。それに、耐えて来たから、千年のときを超えて、今も、多くの人に愛されているのであろう。
その中で、相聞歌は、愛しい人への、言うに言えない、心のひだを、表現するには、最も相応しいものなのである。
さあ、貴方も、貴女も、愛しい人にわかるような、ストレートな、相聞歌を作ってみてはいかがです。
そして、恥ずかしがらずに、そっと手渡してくださいね。
それは、交換日記と、どこか似たところありますねえ。
言葉で言えない弱き心を、言葉では表しえない、微妙な心のひだを、巧みな表現で訴えること出来るのです。
「詩歌の世界に、ルネッサンスの夜明けを開こうよ」。
と喜一郎。
「まあ、先生、燃えていますね」。
と登美子。
「そうだよ、人の魂を、揺さぶるような、作品を書いてみたいのだよ」。
と喜一郎。
「やりましょう、私たちは」。
と三人の言葉は重なったのである。
由香里の遺影に手を合わせる二人。
「優しい、思いやりのある人でした」。
登美子は、ハンカチで目頭を拭いている。
「奥様には優しくしていただいた」。
赤舟には、後の言葉が続かない。
「オイオイ、湿っぽい話は止めようよ」。
と喜一郎。
「そうですわ、ねえ」。
「さあ、ビールでも呑もうよ。出前でも取るから」。
と喜一郎。
登美子が仕度に取り掛かる。
ガラガラ、玄関のとが開いた。
「今日は」。
と晶子。
「はーい、何方ですか」。
と登美子。
玄関の方に向かって歩くのである。
「九条さん、私です。大鳳晶子です」。
室内を覗き込むように、声を掛ける晶子。
登美子は、一歩前にでて深々と、頭を下げた。
「喜一郎さんは見えますか?」。
と晶子。
「ハイ先生は、今、食事の準備に取り掛かっています」。
と登美子。
じっと晶子を見詰める登美子。
二人は葬儀以来の、対面となったのである。
「あらあら、遅くなって御免なさい」。
と言って引き出物を手渡したのである。
登美子は、座敷の方に案内するのである。
晶子も仲間に加わって、ビールがどんどん空となっていく。
赤舟は質問した。
「先生は、よく、詩歌とか、詩歌人と言われますね」。
「ハイ、詩、短歌、俳句の総称です」。
「その心は」。
と登美子は、間を置かずに聞いた。
「全ては人間の、内奥から発する、魂の叫び、心の叫びなのですから」。
と喜一郎。
赤舟と登美子は、大きく頷いた。
「そうすると、我が内なる心の叫びを、そのままに、歌い上げよと言うことになりますね」。
と晶子。
「正に、そのとおりです」。
喜一郎は答えた。
晶子は、三人の話を、熱心に聞くのである。何故か、嬉しさがこみ上げてくる。そこには、昔と少しも変わっていない
喜一郎さんいた。
「そういえば、大鳳さんも、晶子さんでしたね」。
と赤舟。
「あら、そう言えば、晶子さんですね」。
登美子は微笑みながら言う。
「そうだよ。与謝野晶子の生まれ変わりだと、どんなに良いか、ずっと思って来たんだ」。
と喜一郎。
「恥ずかしいですは」。
思わず顔を赤らめてしまった晶子だった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

最新出版物
白浜砂夫の電子書籍




ランキング
投票お願いします。
にほんブログ村 ポエムブログへ


人気ブログランキングへ



ブログランキング

ブログ王

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
9641位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
小説・詩
238位
アクセスランキングを見る>>
砂夫ちゃんカウンター
最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。