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中編小説・天使の君は、輝いているかい???10(了)


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翌日の午後のことである。
節子が営む民宿、山桜に、和夫、秋男、幸男や好恵のクラスメートが集まってきていた。
豊先生はこの民宿に逗留していたのである。
榛原郡には、良質な温泉が多い。客受けの良い民宿多くある。その民宿の一つが、この山桜なのだ。
節子は常々、華々しい活躍をする三人に比べて、余りにも地味すぎる自身の生活を嘆いていた。このことに付いては、豊先生の雷が落ちたのである。
さあ、豊先生の雷は怖かったであろうか。
「良い妻になること、良い母親になること、これほどの素晴らしい仕事がどこにあろうか」。
「お勤めですか」。
節子は聞く。
「そうだ、家事を切り盛りするというしごとなのだ」。
節子は、それでも三人が羨ましくてならないと、言い張る。
「節子、分かってくれないかなあ」。
と元気のない声になる。
「でも、先生」。
「母親と言うのはね、子供達には太陽なんだ。たった一つだけの。それで充分じゃないか」。
「そうね、そうよね。三人には、代わりになれる人が現れるかもしれない」。
「そうだよ、節子。母親と言うのは、凄い存在なのだ」。
やがて、節子の顔から笑みがこぼれた。
夕暮れが迫るころ、愛子は一日の授業を終えて、民宿山桜にやってきた。
皆は頃合を見計らって、大広間へと集まったのである。
「先生、よく来て下さいました」。
秋男が挨拶する。
「先生、お元気そうで何よりですわ」。
と好恵。美しくなったものである。
話題は、文集の出版に移っていく。反対する者は、誰もいなかった。
「先生、一人一人の作者の名前を入れるのでしょうか」。
と和夫が聞く。
「もちろんさ」。
と秋男。
豊先生は、暫く考えた後、
「ペンネームにしたら面白いかもしれませんねえ」。
と返答する。
「そうね、今度は、不特定多数の人に見てもらうことになりますものねえ」。
と愛子は語る。
やがて、次郎が息も絶え絶えに駆けつけてくる。
「次郎、待ってたぞ」。
と幸男。
次郎は話の輪の中に入る。
「え、ペンネーム、そりゃ良いよ」。
と次郎は言う。
和夫が聞く。
「じゃあ、おまえのペンネームは?」。
「うーん」。
返事に窮する次郎。
「お前は、弱虫くんがいいよ」。
と幸男。
「如何してだ」。
「何時も、シクシク泣いていた、弱虫の次郎君だからさ」。
と話を進める秋男。
夜の帳がおりても、話は延々と続くのである。
「がっかりした」。
と節子。
「節子は次郎君が好きだったから」。
と好恵が暴露する。
意外と、話が盛り上がった時に、ラブストーリーが飛び出してくるのである。
参加者全てが、一泊して帰っていったのである。
卒業文集は、地元の印刷会社の全面協力により、事は手際よく進んでいった。それには、
地元に残っている、愛子や節子は勿論のこと、校長先生を始め、卒業生も協力してくれたのである。
やがて、地元の購買者を始め、静岡県内の小学校、図書館に配送されていったのである。

あれから、豊は生まれ育った三重県の藤原町で、平穏な毎日を送っている。
藤原町には、山懐に小さな博物館がある。
主に化石を主体に集められている。
その、養老山脈に連なる山懐に、豊の生家はあった。
岐阜県養老町といえば、養老の滝が有名である。あの小学校の銅像にもなっていた孝子の伝説の滝がある。
春は春で新緑が、晩秋は紅葉が美しい。勿論、豊は時々訪れて木の香を愉しみながら、定年後始めた絵画のスケッチをしているのである。
藤原町から、岐阜県の上石津町を経て、養老町へは、車で行けば直ぐのところに在る。
さて、恩師の、小泉先生といえば、同じ三重県の、大安町の自宅を引き払って、生家の奈良県奈良市に行かれたのである。
何でも、御子息は、全国的にも評判になっている特濃豆腐を作っているとのことである。先生から届いたお手紙、それは、先生が元気で居るという証拠でもあろう。
豊は、教え子の一人として、これほど嬉しいことは無いのである。先生が、この広い世界の何処かで、生きて居らっしゃる、ただ、それだけでも、ほっとするような、心が満ち足りた気分になるのである。
豊の許に、新しい卒業文集が届けられたのは、ほんの少しの間のことである。
一つの季節を愉しだ後に訪れた嬉しい便りなのである。
それは、天女様に身代わって、教え子たちがくれた、ご褒美なのかもしれない。
豊はまたしても、彼の地を訪れたのである。
懐かしい、あの小さな駅には、愛子が、教え子の北沢良子や、大原裕次郎と一緒に、出迎えてくれたのである。
「先生の、先生だね」。
と言って微笑んでくれた良子。
「そうだよ」。
と答える愛子。
そんな愛子の仕業に、感謝する豊である。

あくる日、豊は山懐に佇んでいる。
思い出に、思い出を重ねるような山並み、感激に浸るのである。
人は人生の歩みとともに後戻りしてやり直したいことが増えくる。
それは、多くの人が自らの内に持つ愛執である。
これは、失った時間の、余りにも重たいという罪の意識に責め立てられるからであろう。
豊は、いい先生になれなかっことを、今も残念がる。
もっと、もっと良い先生になりたかったのである。
そして、彼の地に踏み止まれなかったことを後悔していた。
彼の地は、誰よりも豊を必要としていたのに。
本当は、誰よりも、誰よりも豊を愛していたのに。
この、青空も、風さえも、豊のことを、大好きだと微笑んでいるではないか。
山彦は君が好きだよ風を呼ぶ。
豊は、父なる権現山の頂に向かって、
「愛子、お前は今日も輝いているかい???」。
と叫んでみた。
その声は、山彦となり、山彦は風に乗って、愛子が教鞭をとる、春霞小学校へと流れていったのである。







(了)

御愛読、厚く御礼申上げます。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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白浜砂夫の電子書籍




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