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中編小説・天使の君は、輝いているかい???4

中編小説・天使の君は、輝いているかい???4


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豊先生が、春霞小学校の先生をしていた頃は、どういう時代であったのであろうか。
先生にとっても、生徒たちにとっても、時代の影響は受けざる得ないものがある。その影響を最も大きく受けたのが、秋田和夫の父であり、野原次郎の父であった。野原次郎の父が職を失ったのは、昭和四十八年師走に入ってすぐのことであった。
「先生、おれ・・・おれ・・・」。
と言って次郎は泣いた。
次郎は、いつになく早く登校していたのだ。
「どうした次郎君」。
と豊先生。
次郎は涙を浮かべながら、父が失職したことを語ったのであった。
豊先生は次郎を抱きしめた。
次郎は、その胸の中で思い切り泣いた。

激動の時代、何が起きるかわからない。
輸入品の増加などから、不況色を漂わせていた繊維業界。
四十九年の四月以降、国の総需要抑制策が一段と浸透し、危機感をましていた。
秋田和夫の父は、この町で唯一の綿織物の工場を、経営していたのである。
賃織りが主体の、零細工場である。
その工賃も、昨年の七、八月頃に比べて、四分の一以下で、完全な採算割れとなったのである。この工場には、町内から七人の主婦が働きに来ていた。この町にとって、労働力の受け手として、存在価値があったのである。
和夫の父の苦悩は、いかばかりであったであろう。母は心労のあまり、寝付いてしまったのである。

ここで、話題を変えてみよう。
豊先生の好きな花は、バラ。
愛子の母、孝子の大好きな花はバラ。
ウイピング、ローズ、の花咲く家は、純白のエプロン姿が良く似合う、女性が住んでいる。大きくはないけれど、そこはかとなく、こざっばりとしている。薄いピンクを主体とした、洋風の家であった。
これは、孝子のセンスを取り入れて建てられたに違いない。
(わらべは見たり野なかのバラ、清らに・・・)。
歌は流れる、流れて遥かかなたへ。
涼やかな声は、満ち足りた心の豊かさ、とても、主人を亡くした人とはおもえない、気高さもあった。
丘陵と山懐の間にある、愛子と孝子の家。
その家を右手に見て、通り抜ける一台の自転車があった。
その、自転車は秋田和夫の家に向かって猛スピードで走っていた。
ペダルをこぐ、豊先生の足は重たかった。
どんな言葉で励まして良いのか、その言葉が見つからない。自身の未熟さ、経験の無さ、それが悲しくてならないのである。
「和夫君の、何の力にもなってやれないのか」。
ため息を吐くのである。

時は流れて、梅雨の頃のことである。
放課後になって、雨脚は強まるばかりである。
職員室に、愛子と好恵が訪れていた。
好恵が語ってくれたヒソヒソ話し。
これは、今も忘れられないのである。
お下がりの教科書に込められた母の愛は、豊先生の胸を締め付けた。
それは、好恵が四年生の学年末の時のこと。
父が経営する、北村林業は倒産したのである。
優れた杉や、ヒノキを切り出し、その名は全国に知られていた会社である。
事業とは、時代の波に弄ばれてゆくものなのだろうか。
儚く消えていった。
人は奈落の底に落ちた時に、非常さを思い知らされるものである。それは、他人より、親族のあまりの冷たさを知るからである。
娘に新しい教科書を揃えてやりたい。
お金を借りにいった母。
「こんな、お金さえも持たして帰して下さらないのか、酷い」。
叔母に縋って、母の文子は泣いた。
叔母は、
「これでも持って帰りな」。
と言って、子供の、使い古した教科書を渡すのだった。
母は、長い道のりをトボトボト帰ってきた。
そからが、好恵と母のドラマが始まるのである。
「おかあさん、お帰りなさい」。
「好恵、ほら、こんないい教科書は、どこを探してもありゃしないよ」。
母は涙を拭きながら手渡すのであった。
「ごうして?」。
「ほら、漢字の所に振り仮名が振ってあるだろう。実にわかりやすいじゃないか」。
「お母さん」。
好恵も泣いた。
「泣くな好恵、これなら辞典だって買わなくて済むというもんだ」。
「うん。好恵、もう泣かない」。
「これが思いやりって言うもんだぞ」。
その後、母は大声で笑った。
「お母さん、いい教科書をありがとう」。
好恵は負けずに言った。
将来、好恵はファッション業界をリードするナンバーワンのデザイナーに上り詰めていくのであるが、あの勝気で負け時嫌いな性格は、この時から始まったのである。

さぁ、日差しの中へ飛び出そう。
太陽の光は、みんなに公平に降りそそいでくれるのだ。
五月も五日は暦の上では立夏を迎える。二日は雑節の八十八夜。
童謡、茶摘の中で、
夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が繁る、あれに見えるは茶摘じゃないか、あかねたすきにすげのかさ、
と歌われている。
詩情豊かな、故郷の山河よ。
山河はこんなにも、優しく包んでくれる。
あの時代もそうだった。
若き女性達の歌声は流れていた。
今も、あの、うら若き女性達の歌声は流れているのでしょうか?。
愛子の母、孝子はこの歌が大好きだ。
作業中にこの歌を、よく歌っている。
歌は時には、涙も運んでくるものである。
愛する人と共に生きた思い出がそうさせるからである。
今日は誰を偲んで歌っているのでしょうか?。
仕事が殊のほかはかどっているのである。
しかし、季節は残酷さを見せ付ける時もある。
季節外れの霜のため、水気を多く含む若芽が凍死して被害を受ける。
地元の人達は、『八十八夜の別れ霜』、と呼んでいる。
暖冬で作物の生長が早く、『今年は順調』、と油断した直後に起きる。
この事は、米作りにも似たところあるようだ。
春に夏めいた暖かさが続き、やがて、冷夏によって苗が傷め付けられるということになる。それは、孝子にとって、実入りが多くなるか少なくなるかという瀬戸際のことでもある。さて、今年はというと、順調に生育し、香りもことのほか味わい深く、孝子もほっと一息できたのである。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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白浜砂夫の電子書籍




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