短編小説・鹿鳴館の舞踏会・第一楽章『問題提示』1 短編小説・鹿鳴館の舞踏会・序曲〜全ては一流の文化人に成る為の旅路だったのだ。
〜時には、時代の流れを、人の歴史を、末来から現在へと問題提示していくことでもある。
時はと言えば、2016年(平成28年)5月末日の頃のこと。
近未来のことである。
場所はと言えば、濃尾平野の中央に位置する岩倉市街を過ぎて、扶桑、大口の町を流れる五条川。
その五条川のほとり、あの橋のたもとにある喫茶店『鹿鳴館』で二人は再会した。
彼、山田文治と名乗る男と、九条の血筋を引く男、その二人が再会したのである。
川の対岸に見る大口町は、市制を敷いていないが、ヨーロッパ風の町並みと、それに似た建物が点在している町である。
「喜一郎さんと言われましたね。あなたが、この地で会いたいと望まれた理由が分かったような気がします」
「ええ。あなたもジーナーリストの一人ですから。それにですね、日経新聞も今年で創刊140年を迎えたわけですから」
「戦略的思考で、この地で会いたいと言うことなんですね」
と文治は言う。
「ええ。我こそは一流の文化人、作家になりたいと願望する故には、経済も避けては通れない問題だと思います」
「それは、あなたが語られるところの・・・全ては世界の平和のために・・・と言う信条は、経済の繁栄なくしては成り立たないと追認しているようなものですよ」
「そうです。あなたが言われるように、これは、認識ではなくて追認と言うことです。私のミスと言うことですね」
「ミス、間違いを認めると言うことですね」
「ええ。それにですね、世界の平和の達成が先なのか、世界の繁栄の達成が先なのか、はたまた、同時進行なのか」
「うーん。卵が先か鶏が先かと言う問答ですか。いや、そうではなく、もっと重たきもの・・・歴史の持つ二つの側面、連続性と遺産財産。それが、あまりにも重大であると言うことでしょうか。」
「ええ。この濃尾平野の大地・中京こそ、日本経済・貿易の主戦場となりつつある」
「文学・歴史を、数式的に研磨されている喜一郎流に言えば、美濃を制するものは、天下を制すると言うお考えなんですね」
と文治。
彼は頷きながら、
「アメリカンコーヒーのアメリカも、ウインナーコーヒーのウインナーも、国名・地名ですよね」
「名は体を表す。いや、味さえも表現している」
と文治。
文治も彼も、美味しそうにウインナーコーヒーを味わっている。
注文したのは、ウインナーコーヒーとモー二ングサービスである。
午前11時半頃までなら受け付けられる。
この五条川の近辺には、アメリカや欧州や中国まで輸出に力を入れる機械メーカー各社が林立している。
そう言っても過言ではない。
「お二人様、話が弾んでいますね」
「ええ」
「知っていますか?第一楽章と言うのは、文学的・文章学的に言えば問題提示と言うことですよ」
と語るこの人物は、この店の常連客のようだ。
巷で言う所の有識者とは、この人のようなことを言うのであろう。
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テーマ : 自作連載小説
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