短編小説・恋愛学入門8
短編小説・恋愛学入門1 短編小説・恋愛学入門2 短編小説・恋愛学入門3 短編小説・恋愛学入門4 短編小説・恋愛学入門5 短編小説・恋愛学入門6 短編小説・恋愛学入門7詩人は、愛の旅人、愛に彷徨いさすらう旅人。
「先生が愛した人って、どんな人なんでしょうね」
歌太郎を困らせる菊子。
「実はねえ、一通の手紙が来ているんだよ」
「手紙、彼女から?」
「そうだよ」
そう言って、机の引き出しから手紙を取り出してみせる。
「時々、来るんですか?」
「いや、違う。何年振りかだね」
菊子は、不思議そうな顔をする。
「私にもよく理解できないが、きっと、心が旅をするんだろうね」
「もしかしたら、自身の心に踏ん切りをつける為に・・・」
と、菊子。そう思ったのだ。
「女性の方って、そう言うことを思うものなんですか?」
と、菊子に聞いてみる。
「多分、そうだと思うんですが・・・」
「嫌いで別れたんじゃないんだ。むしろ大好きだった」
「じゃ、どうして、別れることになってしまったのかしら」
悲しそうな顔を菊子。
「結婚する気にはなれない、と言ったんだよ」
「どうして、どうしてなんですか!」
それは、検事の審問にも似たものだった。
「きっと、愛の深さに怯えてしまったのでしょうね。彼女には言えなかったがね」
歌太郎もそうであったが、『俺なんかが、この人を幸せにしやることはできない、できっこないんだ!』と言う思い。
そう言う思いを持って生きた壮年に、時々、巡り会うことがある。
そんな時は、こう言っている。
余りにも、愛し過ぎたんだよ、程ほどでいいんだよ。
「まるで、蛇の生殺しのようなものね」
「はっきり言わないそのことが、私の罪、愛の罪だったのかもしれない」
愛にも罪があるのでしょうか。
語ったあと、コーヒーカップに手をとった菊太郎だった。
スポンサーサイト
テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学