短編小説・恋愛学入門6
短編小説・恋愛学入門1 短編小説・恋愛学入門2 短編小説・恋愛学入門3 短編小説・恋愛学入門4 短編小説・恋愛学入門5こんな静かな小雨の降る日曜日があっていいのだろうか。
緑子は、定例の茶会に出かけていった。
そう、緑子は華道のある流派の師範代を務めるようになっていた。
余りにも美しい美貌が、世間がほおっておかないのだろうか。
デートは又の機会になりそうである。
では、歌太郎の詩集の編纂はと言うと、賀陽菊子の協力を得て順調に進んでいる。
私塾には、静寂があった。
窓から見る庭に咲いた沈丁花の花は、まるで潤んでいるようだった。
花は、優しいから何も言わないけれど、花は、語り掛けたい人を、追い求めているものなのだ。
千里を超えて香る、沈香と丁字の匂い、まるで愛しい人に届けとばかりに生き生きとしている。
こんな花のことを、熱っぽく語ってくれた彼女も居た。
その人の名は、志摩伊勢子と言う。
どこかに、覚悟している節があると感じられてならなかった。
やがて来る別れの時を、予感していたのだろうか。
伊勢子は、本当は必死だったのかも知れない。
それを、受け止めてやることの出来ない歌太郎であった。
今は、面影の中で存在している人。
その、面影は、七年前のそのままなのだ。
前日の土曜日に、届いた一通の手紙がある。
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テーマ : 自作連載小説
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