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短編小説・(大垣市)水門川12

短編小説・(大垣市)水門川12



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故郷には、美しき山河、幼馴染の人達がくらしている。
それでも、諦めきれないのか、行動へと駆り立ててうくのである。
程なくして、孝夫が、外出先から帰ってくるのを待っている歌子の姿を見付けることができた。歌子は言った。あのもの静かでおとなしい彼女がである
「忘れられない、忘れられない」
若かすぎる孝夫にはわからない、悲しみがあった。
「一緒になれないより、もっと辛い」
「一緒になりたい?」
「そうよ、あなたと」
孝夫、しばらくして
「遊びたいことや、勉強したいことも一杯あるんだ」
的外れな返答かもしれないが、思っていることを素直に語っている。
「そうね、そうよねえ。若いもんね。遊びたいでしょうし、行きたい所だって一杯あるわよね」
「一杯ある。一杯」
「一緒になりたい」
そう言った後、泣き崩れてしまった。孝夫は、食事に誘った後、寮まで車で送ってやったのである。なんて奴だ孝夫は、このまま二人車で、何処か遠くの知らない町へ行ってしまえばいいものを。歌子は大きなバックひとつ、もって会いに来ていたのに。
さて。幾日たったであろうか、
孝夫は、静香と好恵から呼び出されていた。三人は、喫茶店に入った。
「追って行かなきゃだめ」
静香は言う。
「それでいいのか」
孝夫は問いかける。好恵しばらくして
「追って行っちゃ駄目だよ」
「どうして」
静香は聞く。孝夫は、只黙って聞いていた。
「お姉ちゃんは、お兄ちやんのこと好きだから、きっと返しはしない」
好恵は反論する。
「そうだ、お兄ちゃんのことだから、家の人にも、摑まっちゃうね」
静香も納得した。
「返さなくなってしまう」
と、好恵。二人は顔を見合せて頷いた。
「俺、行かないから」
断定的に言った。
「そうよねえ、約束したものねえ」
好恵は言う。
「約束したもんね。ずーっとお兄ちゃんでいてやるって」
静香の言葉。
「ああ、約束したよ。二人が故郷に帰るまで、お兄ちゃんでいてやる」
「故郷に帰るまで・・・」
と静香。
「いつかは故郷にかえるんだろう?」
「故郷に帰る」
「私も帰る」
好恵も続いて言う。
「故郷に帰る、そして故郷の地で生きるのが、一番幸福なんだ」
孝夫の言葉は、自らに問いかけているようである。
「故郷はいい」
と、静香。熱き思いの心のままに。
「故郷には、お父うさんやお母さんもいる」
と、好恵は言う。
「弟や妹もいる?」
孝夫は聞いてみた。
「皆ないる」
「いる、皆ないる」
やっぱり、故郷はいいのだ。
「お兄ちゃんはここにいる?」
好恵は聞いた。
「ずっといる」
「ずーっと」
と、静香。
「ああ、いつまでもここにいる」
きっぱりと言った。
「そうだ、お兄ちゃんはここにいてくれるからいいんだ」
静香は言った。
「お兄ちゃんは何処も行かない」
好恵の、嬉しそうな声が響く店内であった。
青春よ、孝夫の短い青春よ。
別れの日は来た。二人はあの水門川(橋の袂)で待ち合わせた。二人は、まるで思い出を懐かしむように、一歩一歩ゆっくり駅まで歩いていった。孝夫は、歌子の大きなバックを持ってやった。
駅はラッシュ時を過ぎて、ひっそりと静まりかえっていた。
切符を買う歌子。<どうして、行くなと言ってくれないの>心の中では、必死に叫んでいた。改札口を出た所で、バックを渡す孝夫。
「歌子、元気でいろよ」
孝夫は言った。歌子の目に涙が溢れていた。バックを掴むと、振り向くこともなく走っていった。歌子を見たのはこれが最後となったのである。
昭和四十三年の秋は、何時までも、孝夫の心の中で、泣き続けている。
次の日曜日。
静香や好恵からドライブをせがまれた。別に拒む訳もない。
むしろ、心に残る痛みが、消えないままである
孝夫は、寮の近所まで、迎えに行った。車は、愛知県は名古屋市、名古屋城を包む名城公園を目指して走っていた。
カーラジオから流れるあの歌声。
舟木一夫の歌は流れる。
<さんざしの花咲けば、さんざしの花に似た・・・。>
いつのまにか、流れるリズムに乗せて歌っていた孝夫。
何時の間にか、後部座席から身を乗り出していた静香と好恵。
<あの人のあたたかな、あたたかな声がする・・・>
孝夫に続いて静香、好恵も。それは、輪唱になっていった。
<いつも一人、丘の上、雲を見ていたこの僕に>
<いつも一人、丘の上、雲を見ていたこの僕に>
歌は流れる、流れる歌は、別れることの、悲しみを乗せて。
さようなら、短かかった青春の日々。
さようなら、静香、さようなら、好恵。いつかくる別れに耐えられそうにもない孝夫。
もう二度と会うことはありませんでした。



(了)
愛読、厚く厚くお礼申し上げます。よき青春時代を過ごされますように。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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