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短編小説・(大垣市)水門川10

短編小説・(大垣市)水門川10



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孝夫は語る。
「俺、将来は、先生になっても良いかもしれない、と思ったね」
「あなたが、将来は先生にねえ。きっと同じことをするかもね」
歌子は考えた、孝夫と私を隔てているもの。それは歳の差、
それとも、東京への憧れ、東京の大学を受験したよ、言っていたものねえ。
どちらにしても、攻めるには厳しい、水門川の外堀のようなものなのでしょうか。
夏は夕涼がいい。
歌子は浴衣を着て現れた。彼女のいう、贅沢といっていい。
思い切って買ったというのである。孝夫と二人で打ち水をした街を歩きたくなったという。
二人はとんかつ料理の美味い店に入った。孝夫は、味噌カツ定食が大好きだ。その味噌カツの美味さを、この店へ入ってから知ったのである。
「今日は私に払わせてね」
歌子は財布からお金を出した。あわてて孝夫は止めた。何処え行っても、乗合茶房をはじめ、どの店で食事をしても支払いをした。歌子の、心根の優しさを知ったときから、充分に満たされていた。
「年上の人が払うものなのよ」
それは、恋するゆえの抵抗なのか、悲しい叫びなのか、分らないままである。
二人はいつしか、城東の、街、店々まで歩いていた。
「母から、お見合いをさせるから、帰ってこいと言ってきたの」
「お見合い」
聞いても驚かない孝夫。
「見合いって言ってるけど、それは、形ばっかりで、結婚させられちゃうかも」
寂しそうに言う歌子の声。
「お父さんも、帰ってこいよって言っているんだねえ」
質問する。
「父も同じ、お見合いをさせるから帰ってこいと言っているのよ。如何すれば善いのよ」
「如何すればいいのよといわれても」
後が続かない。
「そうよね。そうよえ。私なんか帰ってしまえばいいのねえ」
溢れくる涙を、ハンカチでぬぐ歌子の姿を、街灯りは映し出していた。
ほんの数日後のことである。
歌子のことが心配になって、寮に電話をいれた。電話の応対に出たのは好恵たちだ。
「お姉さんの恋人ね」
そう言ってから、急いで歌子を捜すのである。
「孝夫さんね」
元気のない歌子。
「俺のこと、恋人だってさ」
「ごめんなさい。恋人なんかじゃないもんねえ」
「いいよ、そんなこと」
「それで」
小さな声である。
「いや、どうしてるかと思ってね」
「うん、そうね、わかっているくせに」
あなたのことしか考えていないと言いたかったのであろう。
「孝夫さん」
彼女は少し考えた。
「ねえ、今度三人で、行くけどいい。一緒に食事しましょうよ。あの娘達ったら、休日なのに何処へも行かないの」
孝夫は、少し考えた。胸が熱くなるのを覚えたのである。
「ああ、いいとも、奢ってやるよ」
「ありがとう。甘えてもいいのねえ。うれしい」
「いいさ、妹みたいなんだろう」
「そうよ、妹よ。私の妹なの」
歌子に、明るい声が戻ってきた。
次の日曜日の、午前十一時。
四人は、大垣駅まえのレストラン槌谷のビルに入っていった。食事は二階の中華レストランである。四人は同じテーブルについた。孝夫は、八宝菜の定食セットと、別メニューで酢豚とスープを注文した。
「これでいい?」
「ウワー、ご馳走だ」
うれしそうな、静香と好恵の声。
「甘えちゃってごめんなさい」
明るい歌子の声。
「何だ。甘えたかったのか」
孝夫には、複雑な女心がわからない。別れを決意したあとのお願いだったのである。
「学校は休まずに、続けて行ってね」
と、歌子は言う。
「休まずに行く」
静香は答える。
「私も休まない」
好恵は、明るい娘のそのままで、言うのである。
「休むこともあるの?」
孝夫は質問する。
「休んだことはない」
「ない」
「じゃ、立派だ」
「立派?授業中寝てばっかりしている」
静香の言葉。
「疲れて寝てばっかりしている」
好恵が続く。
「ウーン、休まず学校に行くだけでいい」
と、孝夫は答える。
「学校には、行くだけでいいのよ」
歌子はなだめる。
「俺なんか、皆出席で、卒業式で特別賞を貰ったもんな」
「貰ったの」
感心する歌子。
「そうだ、学校へ行くだけでいいんだ」
「私、休まずに行く」
「私も休まずにいく」
好恵も続く。
「いったら、少しは覚えてかえることがある。それが勉強ってもんなのだ」
と、孝夫は語る。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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