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短編小説・(大垣市)水門川5

短編小説・(大垣市)水門川5



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                                   短編小説・(大垣市)水門川4





月日は百代の過客にして、行き交う人もまた旅人なり。
孝夫、君は今は、旅人なるか、美濃の大地よ、野に咲く花はレンゲ草。幼き頃につみし花だよ。
美濃の平野は、何処まで行っても、レンゲ畑が続いている。まるで紅紫色の海を見ているようだ。陽射しの暖かな日曜日ともなれば、あちらこちらで、花摘む乙女たちが見うけられる。歌子や、静香。好恵がこの地に来て、最初に摘んだ花も、レンゲ草だった。
さて、この地方の産業はというと、何といっても紡績業が盛んなことであろう。
何故、この地に紡績工場が集まり、発展していったかというと、
清んだ河川と、豊富な地下水が存在していたからである。
当時、紡績工場は、新たな対応を迫られていた。若い女性の人材確保という難問である。
戦後の、食料難の時代を乗り越え、人々に安定と余裕の出てきた時代である・父母達は、段々、教育に力を入れるようになったのである。子供達を、義務教育でない高等学校に入学させるように、なってきたのである。孝夫が中学校に在籍していた頃からだ。当然、義務教育ではないから、入学選抜試験があった。これがむつかしい。二日間に渡って、九科目で行われた。又、当時、私学は少なく、この地方でも、一校しかなかった。比べて、県立高校の学費は、格段に安かった。
孝夫と歌子の、喫茶店での会話。
歌子、コーヒーカップをテーブルに置いて
「高校へはいったの」
「行った、君は」
「私、私は中学校をでて、直ぐにこの町にきたは」
「皆んな、そうしたんだろうね」
同意してみせるのである。
「高校はどこで学んだの」
「県立高校だ」
「じゃあ、成績が良かったんだ」
歌子、感心するのである。
「まあな」
微笑んだときの彼って、素敵に思えた歌子であった。時代は、教育のレベルアップへと、動いていたのである。紡績業界では、広く全国から若年労働者を確保するために、昼夜三部制の、定時制の高校を創立したのである。定時制だから、四年間学ぶことになる。紡績業界独特の、三交代勤務に合わせて作られた高等学校なのである。
これは、大きな宣伝効果があったようだ。父母たちは、安心して娘達を送り出したことはまちがいない。指導者達は、時代の流れを、読み解いたのである。

根からも、入学してきたのである。学校の駐車場には、会社専属の大型バスが、常時乗り入れられていた。
静香と好恵は、この定時制の生徒でもあったのだ。
この学校は、次に来る時代と共に消えて行き、市内に、初めての大学が作られ、今に発展していったのである。
この働きながら学ぶということは、なかなか大変だったようである。
女子寮の室長であった歌子は、どんな努力をして彼女達を、学校へ送り出していたのであろうか。歌子は中学校しか出ていなかった。それは、貧しさゆえである。しかし、時代に助けられた面もある。
「中学校を出たら、働きに行くのが当たり前だったからよ」
歌子の言葉に間違いはない。デートにかかる出費、困らない孝夫は恵まれていたというべきであろう。心の中に芽生えた恋心。埋められ溝、堀ならば、埋めてしまいたいのである。
時は流れて、水を張っただけの田が、やがて植田に変わってゆくのは、見ていても楽しいものである。農村では、女性が総動員されるのはこの頃である。
紺絣に紅襷をかけ、手甲、脚絣をつけ、手拭いで包んで、頭に田植笠をかぶった早乙女がなれた手で植えてゆくのである。
田植が終わった田を植田といい、風に戦いで揺れる水面の苗は、あまりにも美しい。
孝夫は、車を止めて、見詰めたままであった。早乙女、それは小女の頃の歌子であり、将来の歌子でもあろう。孝夫には、そう思えたのであろう。
歌子は助手席から見詰めていた。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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