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短編小説・(大垣市)水門川4

短編小説・(大垣市)水門川4



                                   短編小説・(大垣市)水門川1

                                   短編小説・(大垣市)水門川2

                                   短編小説・(大垣市)水門川3





「好かれているんだ」
「そうねえ」
歌子は、段々顔を上向けてきた。やがて、じぃっと孝夫を見詰められるまでになっていた。
「来てよかった」
「俺もだ」
「本当はとても不安だったの」
歌子の、正直な気持ちであろう。
「不安、何で」
「悪い人だったらどうしょうかと心配していたの」
嬉しそうに微笑む歌子。ウエイトレスが席にやってきた。孝夫はコーヒーと、サンドイッチ、アイスクリームを注文した。
「これで良かったね」
了解を求める孝夫。
「充分ですわ」
うなずく歌子。食事をしながらの会話は、故郷宮城県のことや、家族のことまで広がっていったのである。
「俺の歳、知っている」
「教えてくれる」
「十九歳だ、来年二十歳(はたち)になる」
「わかいにねえ」
「若い、歌子さんは」
少し首をかしげる
「私、二十四歳、もう直ぐ二十五」
寂しそうに言うのである。
「二十四歳ね、うううーーん」
後が続かない。
「おいや」
心配そうに聞く
「お付き合い分にわね、別に悪くわない」
「お付き合いだけでなくなったら」
その言葉は、自身に語りかけているようであった。孝夫の心に届いたであろうか。歌子の小さな声、何時か来る別れの時を知っていたようである。
さて、孝夫が一人で
映画を見たのは、去年のことである。それも数ヶ月前のことである。
高等学校を卒業して、社会人になっていた孝夫である。映画といえば、日活劇場、松竹座、東宝劇場があった。いずれの劇場も、いつも満席であった。ちょうど映画の全盛期の頃であろう。
孝夫は、日曜日の昼下がりの、日活劇場で、
舟木一夫主演の、(絶唱)を見ていた。何故か、この映画を見たくて仕方がなかった孝夫である。<いとおしい山鳩は、山越えて、どこの空、名さえはかない淡雪の娘よ、なぜ死んだ、ああ小雪>。クライマックスの時に流れた主題歌は、余りにも悲しく哀愁を帯びていた。孝夫の涙を、誘わずにはいられなかった。それが青春、それがセンチメンタル、それが若さなのだ。(絶唱)レコード大賞、歌唱賞を、受賞した、大ヒット曲である。
純愛よ、清らかな愛よ、シネマで見ると、余りにも写実的である。
隣の席の、若い二人連れは、感極まってか、<ああ・・・>と、溜息をつくばかりであった。
泣かないで、もう泣かないで孝夫さん。あなたが泣くから、私まで泣いてしまったの・・・と、片方の隣席に、うら若き娘がいたら、きっとそう言うだろう。
若き日々に流す涙よ、それも、罪作りになるものになるのである。
これは、孝夫と歌子が、初めて会ったあの日から、十日は過ぎていたであろう。
歌子から、孝夫の家に電話が入った。
次の日曜日、二人は、八幡神社を超えて、興文小学校までは行かない、水門川に、柳が風に流れる様を、まるで愉しめるようなところで、落ち合ったのである。
黙って小さなベンチに腰掛けた二人。
「歌子さん、どうも」
ちょっと照れている、孝夫の姿が可愛らしい。
「今日は、どうも有り難う」
と、お礼を言った歌子。見詰めた目と目。
孝夫は、シネマの観賞を提案した。黙ってうなずく歌子。
この日の空は、どこまでも青く澄んでいた。
手を繋いで歩くほどの仲ではないから、歌子は、半歩遅れて続いた。
松竹座まで語り合うことさえ出来ない二人に、店々の賑わいは、格好の話題を提供したことは間違いない。
歌声が流れる、流れる歌声は、ラジオから流れる、橋幸夫の、凛とした歌声よ、その歌声が流れる街角は、今は、美術館と、新しいビルが建っている。
<春雨や、蓬をのばす、草の色>、松尾芭蕉、美濃の大地に降る、春雨よ、あなたは、この美濃の地に、豊かさをもたらそうとしているのですね。
杭瀬川の堤にも、蓬が、咲き誇る頃となりました。
孝夫と歌子は、降り注ぐ陽射しのなかで、散策していた。
歌子はいつの間にか、女子寮のなかでは、再年長になっていた。寮の室長をしているというのである。その中に、静香と好恵はいたのである。まだ、あどけなさの残る二人。
「妹みたいよ」
歌子は、可愛いと言うのである。静香は大分県から、好恵は鹿児島からこの町に、集団就職で働きにきていた。
歌子が語るには、彼女達は、故郷を捨てたのではないという。心は故郷に置いたまま生きているのだという。
「心、ここにあらず」
と、孝夫。歌子を始め、靜香や好恵が一生懸命働いて得た給料。その中からの、故郷への仕送りは、どんなにか、家計を助けたであろう。歌子は孝夫に語る。
「私の仕送りが、弟や妹の生活費になっているのです」歌は
それは、辛いと言って嘆いている言葉ではなかった。むしろ、歌子が、かけがえのない存在であることを、自慢しているようであった。孝夫は、そんな歌子が愛しく思えてならなかったのだ。
「苦労しているんだ」
感心する孝夫。
「あなたの為に、苦労してみたいの」
歌子の、言葉にこめた思いは、届かなかった。甘やかされて育った孝夫には、響きのないセリフのようでしかなかったのである
歌は流れる、流れる歌は、あの町、この街、あの村、あの野山にも。
<白い野バラを捧げる僕に、君の瞳が明るく笑う、美しい十代、ああ十代、、、>歌手、三田明。美しい十代、なんてすばらしい詞だ。美しい青春、美しい友情、美しい恋愛と、想像を広げていけば、どんなにか素敵なことだろう。一粒の涙を流す孝夫。この熱き思いを誰かに語らずにはいられない。語らせてくれ。語り合いたい。
しかし、よく考えてみれば、友達は、卒業してから、多くは故郷を離れて、都会や、大学に入学していった。社会人になったということが、まだよくわかっていなかった孝夫ではある。ここは、奥の細道、結びの地。松尾芭蕉。
美濃の大地は、詩歌の地でもあるようです。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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