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短編小説・美しき魔性の女1

短編小説・美しき魔性の女1



時は午前一時半、九条喜一郎の書斎の電話、その電話器が鳴った。
「九条さんのお宅ですか」
「はい、九条喜一郎です」
「名東病院の名和といいますが」
「名東病院?果て」
「安田万里子さんと言う方が救急車で搬送されてきたのですが」
「安田万里子さん。ああ、あの人」
「ご存知ですか?」
「ええ、まあ」
「それは良かった。相当やつれています。低血糖で、心臓も弱っています。このままでは危険です」
「うーん、あの人は、安田さんは」
「ええ、それにお子さんが心配そうに、へばり付いている、いえ、より添っている」
名和医師は、姿、現状と、救急車で運ばれてくる前後の経緯を、丁寧に説明するのである。
「直ぐ来ていただけますか」
「うーん、ええ、直ぐいきます」
「ああ、待っています」
名和医師は、安心したように、電話を切った。喜一郎は、急ぎ急ぎ、正装に着替えたのである。万里子さんといえば、何度も男に騙され捨てられた。
病弱であったが、三人の子をもうけた。三人の子は父が違うけれど、大変仲がいい。
喜一郎は、車を走らせる。万里子の面影を追い求めながら。万里子のことは、嫌いではない。むしろ、立派だと思い続けてきた。どんなに、大変な苦境と、病気のなかにあっても、
子供を捨てたいとは言わなかった。
「どうしょうもない、馬鹿な女でしょう」
と、万里子の言葉。その言葉は自嘲ぎみであった。
「いいや、一度だって、子供を捨てると言わなかった、君を立派におもう」
「そう、有り難う」
二人が、しみじみと語りあったのは、遠い年月のことであるが、喜一郎は本心を語っている。彼は、自殺する人物とか、子供を捨てる女が許せないのだ。
「人は、許せないものなかに、人格と宿命を見るようでね」
と言って、別れた、あの時の二人だった。

人は悲しみの海を、誰でも持っている。その海が、果てしなく広く、そして深いかの違いだけであろう。彼、九条喜一郎も例外ではない。
泳いでも渉れない悲しみの海よ、それゆえに、人の人生は、計りがたく、複雑に展開してゆくのであろう。
彼女、安田万里子は、この悲しみの海に溺れても、人生の半分を生き抜いてきた、それも、「人生は、測りがたく、予測も衝かない」
と、喜一郎に言わしめるのである。まさか、病院の、それも、救急センターで再開するなんて思ってもみなかったのである。
「御免なさい。でも、来てくれてありがとう。無理を聞いてくださる人は貴方以外に思い当たらなかったの」
「良いですよ、私で役にたつなら」
「本当は、来ないと決めていたの。これも予測のつかないことかしら」
と、言ったあと、急に泣き出したのである。
「泣いたらだめだよ。君らしくないよ」
「有り難う。そうよね。明るいだけが私の取りえですものねえ」
と、確認もとめるように言うのである。
「根明かと、笑顔が、きみの良さだよ」
交わす言葉のあと、まじまじと万里子を見詰めるのである。ああ、こんなにもやつれてしまつて、言葉にもならない、溜息にもならない、そんな、囁きがもれるのである。
これは、重病であることは、誰の目にも明らかであった。
「失礼します」
と、言って病室に、名和医師が入ってきた。
「暫らく、入院してもらう事になりなすが、よろしいでしょうか?」
「ええ、いいと思います」
と、受け答えする喜一郎。
病状について説明する名和医師。それを聞いている喜一郎。二人の会話が、万里子に漏れ聞えてくるのである。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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