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短編小説・君に心は届いたか5

短編小説・君に心は届いたか5



                              短編小説・君に心は届いたか1


                              短編小説・君に心は届いたか2


                              短編小説・君に心は届いたか3


                              短編小説・君に心は届いたか4



五年は過ぎたであろうか。
いや、もう少し時間が経過しているかもしれない。どこか気が強くて物事をハッキリ言う女性だった。一つ年上の女は、金の草鞋を履いてでも探せというけれども、
良い結果はでなかったようである。まあ、それはそれとして、晶子は、とにかくよく気がつく、世話好きなところもあった。
やがて、夏が来ると、野に出る日々が多くなる。
孝夫にとって、それは束の間の戯れ。涼しげな音声といえば、やはり蝉であろうか。
蝉といえば、ツクツクボウシ。・体長は四十五ミリ前後。体は、暗緑色にて黒班がある。
平野や台地の林に出現する。蝉がなぜ日本人に好まれるのであろうか。
蝉の命は儚い。儚いものは涙をさそうものであるが、蝉は涙よりも静穏を運んでくるものなのである。
息子の博夫が会いに来たのは、初秋の、それも朝晩過ごしやすくなった七日のことだった中学に、入学するというのである。こんなにも大きくなっていたのか。
親は無くても子は育つというべきであろう。いや、片親でも子は育つというべきであろう。
何か、伝えたいことがあったのだろう。その瞳は、言うに言えない悲しみの海で満ちていた。
「お母さんにいい人ができた」
と、息子は言う。凡そ凡人というものは、深刻な時に限って、開き直ったりふざけてしまったりするものである。
父親として、激励すべき時には答えてやらねばならない。強く生きよ、とその一言でも良いのである。博夫は父としての言葉を期待していたのである。
失意のうちに帰って行く博夫の足取りは、あまりにも重たかった。。
かくして日々は、
自らの、内なる問題を解決できないまま、だらりだらりと進んでいくのである。
さて、若き日の思い出を辿れば、
孝夫が、古都京都を旅した時のことだった。
雨に打たれて散策している一人の女性に目が止まった。
晶子も旅をしていた。歌の中山(なかやま)、歌の小径(こみち)は、雨に打たれて、漫ろ歩くには相応しい所である。
晶子は、薩摩生まれで、当時は大学で学んでいた。
晶子は、詩歌、漢文学に、強く惹かれるものがあった。
西郷隆盛と月照が国事を密議した、郭公亭を探求しに来ていたのである。晶子は、やっぱり火の国の女であった。そんな二人に、やがて隙間風が吹いて、別れの時を迎えたのであった。晶子は近じか、結婚するらしいという噂が漏れ聞えてきたのである。それはあまりにも悲しい結末ではないだろうか。
彼氏は晶子より五歳、年下らしい。孝夫にとって晶子は、遠い存在になってしまうのであろうか。日々は流れてゆく。時の流れは速いものだ。
日に添えて離れてゆく心が悲しい孝夫であった。もう心を通わすことの出来ない息子との別れ。孝夫にとって、この世で一番悲しい別離とは、息子博夫との別れであったのだ。
(息子よ、弱音を吐くなよ。強くなれ)、と仏壇で手を合わせている孝夫の姿を、誰も知らないであろう。
博夫が再び訪れて来た。
「お父さん。最後のお別れに来ました」
と、口上を言った。何でも、明後日、母親共々、新しい家に入るというのである。
孝夫は溜まらなく嬉しかった。こんな父親でも、わざわざ会いに来てくれる博夫の心情が愛しかったのである。
晶子と博夫の引越しの当日。
アパートには、運送会社の、三トンのアルミボデャ車が来ていた。
トラックに、淡々と荷物を入れる、二人の姿を、白いブロック塀に隠れるように見守っている、一人の男を見ることができた。
孝夫にとって、新しい父親がしっかりしている人ならば、孝夫にとっても良いことではないだろうか。仮にそうでなくても、母親の晶子は確りしているから、博夫が不幸になることはないというのが、孝夫共々、アパートの住人達の認識であった。
生きよう思えば、男の子は一人でも生きていけるものなのである。
孝夫は、出版した私小説の中でこのように書いている。
(私が父親であったのは、自らの人生の失敗を認めた、度量があったことである)。
人生には失敗付きものである。
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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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