スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

短編小説・砂に書いた漢字2

短編小説・砂に書いた漢字2



                                   短編小説・砂に書いた漢字1

                                   
駅には、出征兵士を送る人々でごった換えっていた。
「正子、妹を頼む」
「お父さん」
「正子、強く生きるんだよ」
父は、あふれくる涙を、ハンカチで押さえた。
「お父さん、死んじゃだめだよ」
正子は、止め処もなく流れる涙を、ふこうとはしなかった。
「幸子や良子のことを頼むよ」
「出来ないよ、出来ないよ。私には出来ないよ」
「「何を言っているんだ。生きるんだ、強く強くいきるんだ」
正男は、正子の手を握りしめた。
「お父さん、、、、出来ないよ」
正子は、まるでささやく声になっていた。汽車は、出征兵士を乗せて満杯になっている。
やがて、ゴトーン、ゴトーン音がして、汽車は動き出した。プラットホームから手を出していた人々は、一歩一歩後ろに退いていく。汽車は、少しずつ、少しずつ、スピードを速めていく。正子は走りだした。
「お父さん」
叫び声は、当たり一面に流れていく。正男は、客車の窓から身を乗り出す。
「お父さん、行かないで、、、、、行かないで、、、、行かないで」
走りながら、必死で叫ぶ正子。駅員も走った。我をわすれて止めに入った。
「止めろ、止めるんだ」
そこから先は、プラットホームは無かった。
正子を抱きしめた駅員に、微笑みがあった。

明くる日、、隣家の芳子おばさんが
さつま芋を三本、持って来てくれた。正子の後ろで、隠れるように見ていた幸子や良子も、うれしそうだった。
「わぁ、大きい」
正子は言う。
「お腹一杯になるよ」
芳子もうれしそうだった。
「正子ちゃん、明日は配給の日だからね。忘れちゃだめだよ」
「はい、ありがとうございます」
正子は、丁寧に頭を下げた。
あれから十日、父が出征したときが過ぎた頃のことだった。
正子は一度も学校に行っていなかった。幸子や良子を送り出していたが、行けなかった。
「正子ちゃんいる」
そう言って、詩織が、ボロボロの障子を開けて入って来た。詩織と正子は机を並べていた。二人大の仲良しだ。さすがに詩織も、今回はこたえたみたいだ。正子は、今までも、妹の世話でよく休んでいた。学校とは縁のうすい子供だった。友達といえば、詩織と君子の二人しかいなかった。
「詩織ちゃんなの」
そう言って、正子は奥から出てきた。
「正子ちゃん、、、、元気」
詩織は、正子の顔色を見て安心した。
「正子ちゃん、学校は」
正子は、うつむいたまま、
「学校はね」
と言って、後がつづかない。
「また、学校にこれるんでしょう」
正子の顔を覗き込む。
スポンサーサイト

短編小説・砂に書いた漢字1

短編小説・砂に書いた漢字1

<はじめに>
時代は、終戦前後、学校に行けない子供が、同級生から、川の砂場に、その日に学んできた漢字を、砂の上に書いてもらって覚えた、、、という体験者からの取材を元に、執筆したものです。



大谷詩織は、研究室の窓越しから、空を見上げていた。
「大谷先生」
振り向いて見ると、助手の臼井千春さんが、手紙を持って立っていた。
「千春さん、何か」
「先生、また、竹中さんて方からお手紙がきました」
そう言ってから、詩織に手紙を渡す。詩織はこの大学で、教育学部の教授をしている。
初めての女性教授であった。
「あら本当、久しぶりだこと、」
詩織は嬉しそうに封を切る。千春にはよく理解できなかった。
字と言っても、たどたどしい文字、それも平仮名が多く使われた内容、宛名と住所も平仮名がやけに目立つ。
「あら、千春さん。竹中さんの、お孫さんが、今度小学校に入学されるんだって」
詩織は、嬉しくてたまらない。
「先生、その竹中さんて方は」
「尋常小学校の時の同級生ですは」
「あら、本当に昔のことなんですねえ」
詩織、感慨深く
「そうです。ある意味では、この人が、私を先生にさせたようなものですわ」
千春さんの方を向いて、笑顔を振りまく詩織。
「先生を見てますと、まるで自分の孫が、小学校に上がるようにみえますわ」
千春も嬉しそうに微笑む。
「私は、結婚もしませんでしたから、子供もいませんけどね。それでもねえ」
千春は、久しぶりに、先生の笑顔を見たような気がした。詩織は、公私、共々に、いそがし過ぎたのだ。
「臼井さん、有り難う」
「ジャ、先生、失礼します」
さて、昭和十九年といえば、日本が、第二次世界大戦の渦中にあった。敗戦への坂道を転がり始めた年だった。この時代にあって、詩織と、竹中正子は、九歳になっていた。
二人は、尋常小学校の同級生である。正子には、二人の妹がいた。幸子と良子である。母はといえば、正子が五歳の時に亡くなっていた。三人は、父、正男の男手一つで育てられたのだ。とある日。
「正子、なに泣いているの」
隣家の、川村芳子は、厳しく叱った。
「でも、、、、でも」
「今日は目出度い、お父うさんの出征の日なんだからね」
そう言ってから、正子を睨む。
「おばちゃんなんか、大嫌い」
悲しみの心のまままに。それから正子は駅のほうに向かった。

歌詞・故郷は緑よ

歌詞・故郷は緑よ

〔1〕
故郷は緑よ、、、、緑の山よ
心は叫び、、、木霊(こだま)は還る
時空を越えて、、、流れゆくなら
君よ帰れよ、、、我も帰ろう

〔2〕
故郷は緑よ、、、緑の丘よ
風揺らめいて、、、誰を誘うか
甘く香れよ、、、花の咲く頃
君よ帰れよ、、、我も帰ろう

〔3〕
故郷は緑よ、、、緑の湖(うみ)よ
心安らぐ、、、静けさに泣く
母の面影、、、愛を浮かべて
君よ帰れよ、、、我も帰ろう

〔4〕
故郷は緑よ、、、青春の色
カンパスに見る、、思い出の色、
全てを懸けた、、、あの日の為に
君よ帰れよ、、、我も帰ろう

随筆・熱き眠られぬ夜に

随筆・熱き眠られぬ夜に


暑さが堪えて、辛い夜に、古くなった原稿を、読み返している。

〔題〕変人の日記  作・白浜砂夫 平成十一年十月二十七日

時は十月、何と中秋の青空に、心は踊り、外出することの、ああ、、、、楽しきことよ。
中秋の頃に、ざわつく心ゆえに。
思えば、、熱いような、涼しいような、、そんな毎日ですけれど、、服一枚を、着たり脱いだりすれば、、うまく時節を、過ごすことができると、そう自分に言い聞かせているこの頃です。早いもので、二十四日の、日曜部から、三日も経ってしまいました。
ほんの三日の、忙しさが続いただけなのに、原稿用紙に、ペンをとることさえ、いやになっていた。その日曜日は、岐阜県安八郡安八町の、ふれあい祭りの、人ごみの中に紛れていたのです。また、いつもの歌謡ショーを、楽しみに、出掛けて行きました。
三沢あけみ、門倉有希、山本智子(さとこ)が出演するショーは、充分に楽しませていただきました。三沢あけみの、(島育ち)をはじめ、全てが良かったのです。
終了してからは、地元の有志による、和太鼓の競演を、じっくり聞かせてもらいました。
太鼓をたたく、女の人の、足の位置と、ポーズは、決まっていて、相当の練習量を、積んでいると、感心した。とっても、色っぽい、、、、いい女。
歌手では。門倉有希さんですねえ。とても素敵でした。黒のシースルがよかったから???
いえいえ、それだけではありません。ヒット曲、(のら)の、外国語版を、来年の三月に出すとのこと。どこまでいっても、前向きの人なんですねえ。それに、最後まで舞台に残って、フアンと握手しているあなた。惚れ惚れして、会場を後にしました。有希よ、何時か何処かで俺と会うことがあったら、、、、俺に向かって、投げキッスをしておくれ。そしてこう言ってほしい。(可愛い、可愛い、お爺さんですこと)。それが、俺には嬉しい言葉なんだから。俺ってなんなんだ?それでも、《将来》への希望を、持ち続けたいと苦しんでいるのです。君は知っているかい、俺の《将来の希望》。なあに、色っぽい女、愛苦しい女と、一緒になることさ。・キーワードは、《愛、一筋》、愛の為にペンを取り、愛の為に心乱し、愛の為にこの身をやつす。
なんと馬鹿な俺よ。かりそめの恋よりもはかない、幻に近いような、ものではないか。
もし、貴女が、何処か遠くの知らない町で、俺と会っても、別に不思議ではないと思います。何処にでも出掛け、何処に出現れる俺だもの。俺と貴女が、巡り合ったことがドラマになるなら、素晴らしいけど。
そんなこってあるだろうか。そんなこともあってほしい。


記載 平成二十六年六月十九日 深夜早朝にて

短編小説・(大垣市)水門川12

短編小説・(大垣市)水門川12



                                   短編小説・(大垣市)水門川1

                                   短編小説・(大垣市)水門川2

                                   短編小説・(大垣市)水門川3

                                   短編小説・(大垣市)水門川4

                                   短編小説・(大垣市)水門川5

                                   短編小説・(大垣市)水門川6

                                   短編小説・(大垣市)水門川7

                                   短編小説・(大垣市)水門川8

                                   短編小説・(大垣市)水門川9

                                   短編小説・(大垣市)水門川10

                                   短編小説・(大垣市)水門川11





故郷には、美しき山河、幼馴染の人達がくらしている。
それでも、諦めきれないのか、行動へと駆り立ててうくのである。
程なくして、孝夫が、外出先から帰ってくるのを待っている歌子の姿を見付けることができた。歌子は言った。あのもの静かでおとなしい彼女がである
「忘れられない、忘れられない」
若かすぎる孝夫にはわからない、悲しみがあった。
「一緒になれないより、もっと辛い」
「一緒になりたい?」
「そうよ、あなたと」
孝夫、しばらくして
「遊びたいことや、勉強したいことも一杯あるんだ」
的外れな返答かもしれないが、思っていることを素直に語っている。
「そうね、そうよねえ。若いもんね。遊びたいでしょうし、行きたい所だって一杯あるわよね」
「一杯ある。一杯」
「一緒になりたい」
そう言った後、泣き崩れてしまった。孝夫は、食事に誘った後、寮まで車で送ってやったのである。なんて奴だ孝夫は、このまま二人車で、何処か遠くの知らない町へ行ってしまえばいいものを。歌子は大きなバックひとつ、もって会いに来ていたのに。
さて。幾日たったであろうか、
孝夫は、静香と好恵から呼び出されていた。三人は、喫茶店に入った。
「追って行かなきゃだめ」
静香は言う。
「それでいいのか」
孝夫は問いかける。好恵しばらくして
「追って行っちゃ駄目だよ」
「どうして」
静香は聞く。孝夫は、只黙って聞いていた。
「お姉ちゃんは、お兄ちやんのこと好きだから、きっと返しはしない」
好恵は反論する。
「そうだ、お兄ちゃんのことだから、家の人にも、摑まっちゃうね」
静香も納得した。
「返さなくなってしまう」
と、好恵。二人は顔を見合せて頷いた。
「俺、行かないから」
断定的に言った。
「そうよねえ、約束したものねえ」
好恵は言う。
「約束したもんね。ずーっとお兄ちゃんでいてやるって」
静香の言葉。
「ああ、約束したよ。二人が故郷に帰るまで、お兄ちゃんでいてやる」
「故郷に帰るまで・・・」
と静香。
「いつかは故郷にかえるんだろう?」
「故郷に帰る」
「私も帰る」
好恵も続いて言う。
「故郷に帰る、そして故郷の地で生きるのが、一番幸福なんだ」
孝夫の言葉は、自らに問いかけているようである。
「故郷はいい」
と、静香。熱き思いの心のままに。
「故郷には、お父うさんやお母さんもいる」
と、好恵は言う。
「弟や妹もいる?」
孝夫は聞いてみた。
「皆ないる」
「いる、皆ないる」
やっぱり、故郷はいいのだ。
「お兄ちゃんはここにいる?」
好恵は聞いた。
「ずっといる」
「ずーっと」
と、静香。
「ああ、いつまでもここにいる」
きっぱりと言った。
「そうだ、お兄ちゃんはここにいてくれるからいいんだ」
静香は言った。
「お兄ちゃんは何処も行かない」
好恵の、嬉しそうな声が響く店内であった。
青春よ、孝夫の短い青春よ。
別れの日は来た。二人はあの水門川(橋の袂)で待ち合わせた。二人は、まるで思い出を懐かしむように、一歩一歩ゆっくり駅まで歩いていった。孝夫は、歌子の大きなバックを持ってやった。
駅はラッシュ時を過ぎて、ひっそりと静まりかえっていた。
切符を買う歌子。<どうして、行くなと言ってくれないの>心の中では、必死に叫んでいた。改札口を出た所で、バックを渡す孝夫。
「歌子、元気でいろよ」
孝夫は言った。歌子の目に涙が溢れていた。バックを掴むと、振り向くこともなく走っていった。歌子を見たのはこれが最後となったのである。
昭和四十三年の秋は、何時までも、孝夫の心の中で、泣き続けている。
次の日曜日。
静香や好恵からドライブをせがまれた。別に拒む訳もない。
むしろ、心に残る痛みが、消えないままである
孝夫は、寮の近所まで、迎えに行った。車は、愛知県は名古屋市、名古屋城を包む名城公園を目指して走っていた。
カーラジオから流れるあの歌声。
舟木一夫の歌は流れる。
<さんざしの花咲けば、さんざしの花に似た・・・。>
いつのまにか、流れるリズムに乗せて歌っていた孝夫。
何時の間にか、後部座席から身を乗り出していた静香と好恵。
<あの人のあたたかな、あたたかな声がする・・・>
孝夫に続いて静香、好恵も。それは、輪唱になっていった。
<いつも一人、丘の上、雲を見ていたこの僕に>
<いつも一人、丘の上、雲を見ていたこの僕に>
歌は流れる、流れる歌は、別れることの、悲しみを乗せて。
さようなら、短かかった青春の日々。
さようなら、静香、さようなら、好恵。いつかくる別れに耐えられそうにもない孝夫。
もう二度と会うことはありませんでした。



(了)
愛読、厚く厚くお礼申し上げます。よき青春時代を過ごされますように。

短編小説・(大垣市)水門川11

短編小説・(大垣市)水門川11



                                   短編小説・(大垣市)水門川1

                                   短編小説・(大垣市)水門川2

                                   短編小説・(大垣市)水門川3

                                   短編小説・(大垣市)水門川4

                                   短編小説・(大垣市)水門川5

                                   短編小説・(大垣市)水門川6

                                   短編小説・(大垣市)水門川7

                                   短編小説・(大垣市)水門川8

                                   短編小説・(大垣市)水門川9

                                   短編小説・(大垣市)水門川10





勉強するということ、孝夫が語る言葉は、恩師の言葉でもあった。
「少しだったらいい」
「「少しだったらできる」
「うん、うん」
孝夫は大きくうなずいた。歌子は皆を見渡して言った。
「一生懸命勉強したら、そうねえ、孝夫さんにドライブに連れていってもらいなさい」
「ドライブ、ウフ、うれしい」
と、静香は騒いだ。
「ああ、いいとも」
孝夫は承託した。
「それでいつ、いつなの」
好恵が甘えてくる。
「いつかねえ」
歌子から一筋の涙が流れた。
「何時でも連れて行ってやるよ」
孝夫は、涙の訳を知ったのである。
「私、故郷に帰るかもしれない」
歌子の、インパクトのある言葉。
二人は、大きな衝撃を受けたのである。
昼間はまだ暑い日が続いているのに、
夜の秋ともなれば、心はちじに乱れて、寝られぬ夜が苦しくなる。
故郷は、父なる大地、母なる都ぞ。命ある限り消え去りはしない。
東京は、心の都であるが、心の故郷にはなれない。
東京の大学へ行って、学問の道を修めたいとは思ったが、住みたいところと思ったことはない。母、富子は、孝夫の人となりを知っているがゆえに
「そう、この子がねえ、東京にねえ。やっぱりねえ」
と、孝夫に語る言葉は余りにも寂しいものであった。
孝夫の、苦悩は深まり行くばかりであった。
孝夫は、歌子を喫茶店に呼び出した。
外出する時間帯を狙って、電話を入れたのである。
「今度の日曜日、四人でドライブに行こうよ」
歌子の悲しみを、少しでも和らげてやりたい、そう考えたのだ。
「有り難う、私はもういいの」
歌子は、首をふった。
「もういいの?」
「あの娘達とても楽しみにしていたわ。いい励みになるわ」
「わかった約束する」
「きっとよ」
「場所は大垣駅の入り口、時間は午前九時半」
「ありがとう」
歌子は頭を下げた。
「故郷に帰るんだよ。故郷に帰るのが幸福なんだ」
慰める孝夫。
「あなたは、私の気持ちをわかってくれない。わかってくれない」
「歌子・・・歌子」
「いいの、私、故郷に帰るから」
二人は、無言のまま見詰めあっていた。
日曜日、孝夫と静香、好恵。
三人が養老公園、孝子の滝へ行ってから、事態の進展は早まって行く。
歌子の元に、急ぎ帰宅の手紙が届いたのである。
お見合いの相手が、大変乗り気になっているというのである。日取りも決まったということである。歌子はあきらめ切れない、自分が悲しかった。私はあの人と世帯を持ちたい、あの人のお嫁さんになりたい。涙ぐんでも聞いてくれるひとはいない。
そして、歌子は行動にでた。

短編小説・(大垣市)水門川10

短編小説・(大垣市)水門川10



                                   短編小説・(大垣市)水門川1

                                   短編小説・(大垣市)水門川2

                                   短編小説・(大垣市)水門川3

                                   短編小説・(大垣市)水門川4

                                   短編小説・(大垣市)水門川5

                                   短編小説・(大垣市)水門川6

                                   短編小説・(大垣市)水門川7

                                   短編小説・(大垣市)水門川8

                                   短編小説・(大垣市)水門川9





孝夫は語る。
「俺、将来は、先生になっても良いかもしれない、と思ったね」
「あなたが、将来は先生にねえ。きっと同じことをするかもね」
歌子は考えた、孝夫と私を隔てているもの。それは歳の差、
それとも、東京への憧れ、東京の大学を受験したよ、言っていたものねえ。
どちらにしても、攻めるには厳しい、水門川の外堀のようなものなのでしょうか。
夏は夕涼がいい。
歌子は浴衣を着て現れた。彼女のいう、贅沢といっていい。
思い切って買ったというのである。孝夫と二人で打ち水をした街を歩きたくなったという。
二人はとんかつ料理の美味い店に入った。孝夫は、味噌カツ定食が大好きだ。その味噌カツの美味さを、この店へ入ってから知ったのである。
「今日は私に払わせてね」
歌子は財布からお金を出した。あわてて孝夫は止めた。何処え行っても、乗合茶房をはじめ、どの店で食事をしても支払いをした。歌子の、心根の優しさを知ったときから、充分に満たされていた。
「年上の人が払うものなのよ」
それは、恋するゆえの抵抗なのか、悲しい叫びなのか、分らないままである。
二人はいつしか、城東の、街、店々まで歩いていた。
「母から、お見合いをさせるから、帰ってこいと言ってきたの」
「お見合い」
聞いても驚かない孝夫。
「見合いって言ってるけど、それは、形ばっかりで、結婚させられちゃうかも」
寂しそうに言う歌子の声。
「お父さんも、帰ってこいよって言っているんだねえ」
質問する。
「父も同じ、お見合いをさせるから帰ってこいと言っているのよ。如何すれば善いのよ」
「如何すればいいのよといわれても」
後が続かない。
「そうよね。そうよえ。私なんか帰ってしまえばいいのねえ」
溢れくる涙を、ハンカチでぬぐ歌子の姿を、街灯りは映し出していた。
ほんの数日後のことである。
歌子のことが心配になって、寮に電話をいれた。電話の応対に出たのは好恵たちだ。
「お姉さんの恋人ね」
そう言ってから、急いで歌子を捜すのである。
「孝夫さんね」
元気のない歌子。
「俺のこと、恋人だってさ」
「ごめんなさい。恋人なんかじゃないもんねえ」
「いいよ、そんなこと」
「それで」
小さな声である。
「いや、どうしてるかと思ってね」
「うん、そうね、わかっているくせに」
あなたのことしか考えていないと言いたかったのであろう。
「孝夫さん」
彼女は少し考えた。
「ねえ、今度三人で、行くけどいい。一緒に食事しましょうよ。あの娘達ったら、休日なのに何処へも行かないの」
孝夫は、少し考えた。胸が熱くなるのを覚えたのである。
「ああ、いいとも、奢ってやるよ」
「ありがとう。甘えてもいいのねえ。うれしい」
「いいさ、妹みたいなんだろう」
「そうよ、妹よ。私の妹なの」
歌子に、明るい声が戻ってきた。
次の日曜日の、午前十一時。
四人は、大垣駅まえのレストラン槌谷のビルに入っていった。食事は二階の中華レストランである。四人は同じテーブルについた。孝夫は、八宝菜の定食セットと、別メニューで酢豚とスープを注文した。
「これでいい?」
「ウワー、ご馳走だ」
うれしそうな、静香と好恵の声。
「甘えちゃってごめんなさい」
明るい歌子の声。
「何だ。甘えたかったのか」
孝夫には、複雑な女心がわからない。別れを決意したあとのお願いだったのである。
「学校は休まずに、続けて行ってね」
と、歌子は言う。
「休まずに行く」
静香は答える。
「私も休まない」
好恵は、明るい娘のそのままで、言うのである。
「休むこともあるの?」
孝夫は質問する。
「休んだことはない」
「ない」
「じゃ、立派だ」
「立派?授業中寝てばっかりしている」
静香の言葉。
「疲れて寝てばっかりしている」
好恵が続く。
「ウーン、休まず学校に行くだけでいい」
と、孝夫は答える。
「学校には、行くだけでいいのよ」
歌子はなだめる。
「俺なんか、皆出席で、卒業式で特別賞を貰ったもんな」
「貰ったの」
感心する歌子。
「そうだ、学校へ行くだけでいいんだ」
「私、休まずに行く」
「私も休まずにいく」
好恵も続く。
「いったら、少しは覚えてかえることがある。それが勉強ってもんなのだ」
と、孝夫は語る。
プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

最新出版物
白浜砂夫の電子書籍




ランキング
投票お願いします。
にほんブログ村 ポエムブログへ


人気ブログランキングへ



ブログランキング

ブログ王

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
7825位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
小説・詩
167位
アクセスランキングを見る>>
砂夫ちゃんカウンター
最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。