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文芸誌 『純情』 再発売のお知らせ

完売しておりました、文芸誌『純情』を増刷いたしました。

純情

内容は、

・俳句七選
・和歌十五選
・詩二編
・随筆一編
・短編小説二編

となっております。

総ページ数98ページ、A5判となっております。

定価は700円です。

銀行振替、代引き、収入印紙による支払い可です。

ご購入を希望の方は、コメント欄に、購入希望の旨を記入して下さい。
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短編小説・学級委員長物語7

短編小説・学級委員長物語7


                                 短編小説・学級委員長物語1


                                 短編小説・学級委員長物語2


                                 短編小説・学級委員長物語3


                                 短編小説・学級委員長物語4


                                 短編小説・学級委員長物語5


                                 短編小説・学級委員長物語6





青紫色のリンドウの咲く頃は、なぜか、初恋について語られる事もある。
小春日和の日々は、白樺小学校の校庭のブランコには、仲良しの男女が並んで遊んでいる姿が見受けられる。
幸治と広子、昭夫と文香もブランコで遊んでいた。
あちらこちらでは、晩秋を愛しむ様に立ち去りがたい姿が見受けられる。

そして冬休み。
正月を過ぎて、六年間の総仕上げともなる三学期が始まるのである。
学級委員長が、副委員長を連れて、職員室に出入りする事が多くなる。
やがて巣立ち行く生徒達。
行く歳月を懐かしむ暇もなく送り出さなければならない教職員達。
それぞれの熱き思いが交差して、やがてクライマックスを迎えようとしていた。

事件は、そんな、最も忙しい日々の中で起きた。
二月三日、節分の日の午後。
太陽先生は、公用で、夢花町の中心街に来ていた。
教育委員会に立ち寄った後、急いで車を走らせて、帰校しようとしていたのだ。
カーブに差し掛かった所で、ハンドル操作を誤って、車は崖下に転落してしまった。
後続車の通報で、すぐさま、救急車で町営病院に運ばれた。
足腰を骨折して、全治三ヶ月の入院との診断が下されたのである。
校長先生の嘆きは、いかばかりであろうか。この話はすぐに、リンドウ組の生徒達の下にも届いてしまった。
「学級委員長」
一郎は走って来た。
「何かあったのか?」
と、幸治。
「先生が、先生が、事故で緊急入院したらしい」
と、一郎。
授業前のクラスは、大騒ぎになった。
「学級委員長、どうしょう」
と、雪夫が声を掛けてきた。
「皆、静かにして、とにかく今は、自主学習をしていようよ」
と、幸治がそう話し終わったあと、間もなく、ドアを開けて、教頭先生が入って来た。
幸治と教頭先生の話しは、クラス会についてであった。
卒業演劇の演目と、練習のスケジュールを、話し合う事で一致したらしい。
教頭先生は、すぐに退室した。
卒業演劇と言うのは、六年生が劇をして、親、卒業生に見てもらる、午後の部と、在校生に見せる午前の部の二部構成で行われる。
最後のとりを務める、最も華やかな行事である。
幸治はまず、前日、太陽先生から話しがあった、上演日。
その上演日を、皆と確認し合った。
幸治は、そこから、逆算して行く事を考えた。
「皆に、お願いしたい事があります」
教室内がシーンとした。
「それぞれに、上演する演目を考えて来て欲しい。明後日までにです。太陽先生から頂いた数点の資料。それからお兄さん、お姉さんの居る人は、聞いてみるのも良いでしょう」
「今日は、何を話し合うのだ」
と、立ち上がって言う古田純一。
「監督、助監督とか、それに舞台監督も決めればいいと思います」
千佳子も、立ち上がって言った。
その後、
「先生が居なくて、俺たちだけでできるのか?」
と、一郎は叫んだ。
教室内では、ヒソヒソ話しが始まった。
「静かにして」
幸治は大きな声で言った。
再び、シーンとなった教室。
「今、話し合える事は、決められる事。その決められる事を、皆で、話し合っていこうよ」
と、言って幸治は皆の目を見た。
「そうだ」
昭夫は立った。
豊も釣られて立った。

短編小説・学級委員長物語6

短編小説・学級委員長物語6


                                 短編小説・学級委員長物語1


                                 短編小説・学級委員長物語2


                                 短編小説・学級委員長物語3


                                 短編小説・学級委員長物語4


                                 短編小説・学級委員長物語5



季節といえば、中秋の頃。
どこか、物憂く、揺らめく、少年少女たちの心よ。
それが、煌めいて見える時が、なおさら、愛おしい。
運動会と言えば、なんといっても、クラス対抗リレーと、綱引き競争だ。
「俺たち、コスモス組なんかに、絶対に負けられないなあ」
と、昭夫が言う。
「必勝あるのみ」
と、豊も続く。
「人選が問題になるぞ」
幸治は、腕を組む。
「まず、リレー走者から決めなくては」
と、副委員長の雪夫が言う。
「太陽先生は、何て言ってたの?」
と、文香。幸治の顔色を見る。
「先生。先生は、クラス全員が、最低一つの競技には出場できるようして欲しいと、そう言っていたね」
「他には?」
広子が、言葉を掛けてくる。
「みんなで、相談して決めろと言っていた」
「よし、放課後、広子ちゃんの家に集合」
と、雪夫と昭夫が、声をそろえて言う。
「うん、ショートケーキを買って待っている」
と、広子は嬉しそうに、微笑む。
そこには、何時ものメンバーの表情があった。

明くる日のクラス会。幸治は黒板に向かって字を書く。
出場種目。
ラジオ体操。全員が参加。
パン食い競争。男女ペア、六組。
二人三脚リレー、男女ペア、六組。
クラス対抗リレー、五名。
綱引き競争。五六年生、リンドウ組、二十名。
幸治は書き終わってから、みんなの顔を見た。
「学級委員長」
「「何ですか、花村君」
「僕、パン食い競争が良いです」
「君の気持ちは分かるけど、君は足が速いから、リレーが良いと思います」
「俺たち、コスモス組には、負けたくないなあ」
と、昭夫が言う。
「花村、お前の協力が必要なんだ」
と、豊も同調する。
「分かった、分かった」
と、なぜか嬉しそうに引き下がる花村。
「クラス全員、それぞれ二つの競技に出られるように、皆で考えようよ」
と、幸治は提案する。
「二つも出るんですか?」
と、千佳子が質問する。
「千佳ちゃん、ビリでもいいから、ビリでもかまわないのよ」
と、助け舟を出す広子。
「参加する事に意義がある」
と、雪夫は言う。
「五年生の時は、三つの競技に出る人も、一つの競技だけ出場した人もいましたが、できるだけ万遍なく、出場できるように、配慮したいと思います」
と、幸治は、皆に語りかける。
「それでも、クラス対抗リレーだけは、負けたくないと言う意見もありましたので、リレーメンバーだけは、学級委員長を中心に、人選させて頂きました」
と、雪夫は、起立してメンバーを発表した。
「賛成」
「賛成」
拍手の内に、クラス会は終わった。
運動会は、澄み渡る青空の下、全員参加の中で、無事に終了する事ができたのである。

短編小説・学級委員長物語5

短編小説・学級委員長物語5


                                 短編小説・学級委員長物語1


                                 短編小説・学級委員長物語2


                                 短編小説・学級委員長物語3


                                 短編小説・学級委員長物語4



やがて、希望に胸膨らむ、初夏を迎える頃となる。
こんな出来事があった。
「先生は、今日は昼から、教員研修に行ってきます。五時間目は、自主学習を、お願いします。六時間目の体育は、みんなでドッジボールをして過ごして下さい」
昼食の時間の事だった。
「先生、自主学習は、何をすれば良いですか?」
副委員長の広子が聞く。
「そうですねえ。読書感想文が良いかと思います」
「昨日、読み合った、宮沢賢治のですか?」
と、香織が聞く。
「そうです」
と、言ってから、太陽先生は、学校を早退した。
先生は、作文教育に力を入れておられた。この学校の作文教育のリーダー格でもある。

そして、六時間目に入る。
「ひどいわよ、ひどいわよ」
そう言って、幸治に助けを求めてきた千佳子。平野千佳子は、太っていて、動きが緩慢な所がある。
「だって、私ばっかりに、ボールをぶつけてくるんだもの」
千佳子は、半ば、泣き出しそうになっていた。
「だって、すぐ前にいるから、ついつい投げてしまう」
と、一郎は言う。
「一生懸命、逃げようとしているんじゃないの」
文香は、一郎が許せなくなっていた。
「一郎、話がある」
と、幸治は一郎を睨んだ。
「話があるの?」
と、一郎は聞く。
「向こうへ行って話そう」
そう言って、一郎と、コートの外へ出る。
「お前な、女の子をいじめちゃいかん。女の子はいじめるもんじゃない」
「いじめているように見える?」
心外な顔をする一郎。
「あれだけ、集中してボールをぶつけては、いじめているように見える」
と、幸治は言う。
「悪かったな。でも、あの子は、特別、動きが悪いなあ」
幸治も、釣られて苦笑いをする。
「勝つことに、囚われすぎているんだ。文香ちゃんや、美香子ちゃんや、照代ちゃん、皆に、万遍なく、投げ返すようにしないとね」
と、幸治。
「そうしなきゃあ、駄目なのかなあ」
「そうでないと、女の子にはもてない」
と、幸治は一郎の肩を叩く。

二学期が始まった。
幸治は、学級委員長に、雪夫は、副委員長に選ばれた。
図書委員に、広子ちゃんが。放送委員に荒井環が選ばれた。
購買部担当係りには、昭夫と文香が太陽先生から指名された。
購買部というのは、学校の中に、小さな売店があって、昼休みと、放課後、開店していた。
文具、学用品、雑貨、制服などである。土曜日には、パン、サンドイッチも売られた。
それから、子供銀行も開かれていた。これは、農協の代理店という形をとっていた。
もちろん、利息の計算も行われ、集金は、第二、第四の月曜日と決まっていた。
貯金は、修学旅行の費用と、卒業アルバムの代金に当てられる。余った元利は、卒業後、引き出す事ができる。まず、余らないと言う事は無い。それで、中学入学の準備費用に充てる家庭が多かったのである。
五年、六年生が受け持ち、成績の良い者から選ぶと言う暗黙の了解があったから、太陽先生は、指名という形をとったのである。
月々日々に強りたまえ。年齢など関係ない。積み重ねられたものだけが、実力となっていくのであろう。
小さな蛍光灯の下で勉強した幸治や、雪夫達であった。

随筆・南知多を旅して

随筆・南知多を旅して

思い出は、過去に流せない。寄せては返す波のようであれ。
幸福は、愛する人が居たから。愛した人への思い深さと、愛されたことへの、感謝の気持ちが、幸せにしてくれる。
私は選んだ。短編小説、永遠の処女の舞台に、相応しい所であると。
その、確認の旅であった。
永遠の愛を求め、永遠の愛を信じ、永遠に続く人類の歴史を信じる中にしか、世界平和は実現しないのであれば、それはそれでまた、思索を重ねていきたい。

「この、図書館は、何か、重みの深い、味わい深い図書館ですねえ」
と、私は言う。
「いえ、館と言うほどのものでなくて、図書室なんです」
と、優しい言葉の女性係員。
「いいじぁないですか、これほどの味わい深い、重みの深い図書室なら」
「はい、これは梅原猛さんが寄贈されたものなのです」
「あの、著名な、哲学者の」
「はい、日本を代表する人です」
「違うでしょ、世界を代表する人でしょ」
「世界?そうですね。世界を代表する人ですね」
「どうか、大切に、守り続けてください」
と、言って南知多の図書室をあとにしたのである。
3.jpg
(木の入り口の扉の佇まいが良かった)
話は前後するが、内海高校は大変良い高校だと思った。小説のなかでは、本校としてあつかっている。校庭、広くて、青々としている。南洋の樹木が茂り、ハワイの高校に来たのかと、間違えてしまう。
1.jpg
グランド、これが又良い。山懐の、緑なす木々に包まれて、広々としている。
「先生、山懐といっても、山の向こうは海じゃないですか」
と、助手は言う。
「いいじぁないですか、いいじぁないですか。山に抱かれながら、彼方に海を望む事ができる高校なんてありませんから」
「そういえばそれで、味わい深いですね」
との、助手の言葉を残しながら次の予定地へと行く。
町役場に来ててみた。
2.jpg
建物は古いけれども、デザイン的には悪くはない。
「耐震補強がなされていますね。よくやっています」
と、私。
「東日本大震災以来、みんなそうなんです」
と、助手。
「あ、そう、知らなかった。でも、作家的には、書きたくなる所ではある」
「どうぞ、ご自由に。それよりも魚市場に行きましょうよ」
「魚市場、どうしてだ」
「調べてあるんです。魚市場のシラス丼と大アサリ焼き。これが実に美味い」
「わかった。これから直ぐに食べに行こう」
4.jpg

5.jpg
ああ、なんと美味しい大あさり焼き。
「実にうまい」
と、私。
「おいしですか」
「うん、汁もうまい」
「ありがとう」
南知多、心豊かな、潮風と詩情溢れる町よ。
師崎のフェリー乗り場で食べた、シラス丼定食と、アナゴ丼定食、その美味しさも懐かしくなるだろう。
「先生、何をしているんですか?」
「うーん。潮の甘さ、辛さ。それにね、風の優しさ、強さ。そっと包んでくれるような愛おしさがあるのだろうか、と思っいてね」
「それで、良かったですか?」
「来て良かった。本当に来てよかった町だ」
「私も、来て良かったと思います」
6.jpg
(展望台から師崎港を背景に)
さようなら、南知多。知は知恵の豊かさ。多は幸福と心の豊かさ。
愛と詩情溢れる町として、久しく伝えられていくでしょう。



平成24年8月15日、南知多を訪れて

短編小説・学級委員長物語4

短編小説・学級委員長物語4


                                 短編小説・学級委員長物語1


                                 短編小説・学級委員長物語2


                                 短編小説・学級委員長物語3



翌日のこと。
「さあ、皆、学級委員長は誰がいいだろうか?」
太陽先生は、手を叩きながら呼びかける。
「投票が良いと思います」
と、大山真理子が言う。
「山本君が良いと思います」
広子さんが言う。
「引き続き、山本君で良いと思います」
と、雪夫君が言う。
「異議なし」
昭夫君も言う。皆の声が後に続いた。
「山本君、学級委員長を受けてもらえるね」
太陽先生は、念を押すように言った。
幸治はなんと言って答えたのであろうか。
「私は、断ります。澤田雪夫君を委員長に、日野広子さんを副委員長に、お願いしたいと思います」
「そんなのズルイ」
北野愛子が、前方の席から振り向いて幸治を睨む。
「どうして断るのですか?」
と、太陽先生は問いかける。
「どうしてもです」
幸治は断定的に言った。幸治の脳裏をよぎる、邦子先生の言葉。
その言葉の重たさに、負けたんだよ、と語る日もやがて訪れるのである。
「分かりました。一学期は、澤田雪夫君と、日野広子さんに、やってもらいます。二学期は、選ばれたら、決して断わらないように、それだけは念を押しておきます」
放課後、昭夫や良一が、声を掛けてきた。
「途中まで一緒に帰ろうよ」
「うん、そうだねえ」
と、うなずく幸治。
「どうして、学級委員長を断わったの?」
と、昭夫が聞く。
「学級委員長はね、皆がやった方が良いんだよ」
幸治はそう言ったまま、黙ってうつ向いていく。
「やってみなければ、分かってもらえないものなんだよ」
と、言って良一が、肩をたたいて慰める。
学級委員長と言えば、四年の時は、文香が一学期、広子が二学期、荒井環が三学期を受けもった。幸治は、五年になって、一学期、二学期、三学期を、連続して受け持った。
「幸治君なんか大嫌い」
と、広子。
「私も嫌いになりそう」
と、愛子。二人は足速に通り過ぎ行く。
「ああ、広子ちゃんに嫌われてしまったけど、良いのかい。広子ちゃんのこと、好きなんだろう」
と、言って昭夫は冷やかす。
「いいよ、嫌われたって」
幸治はやけくそになって、言い返してみた。
春はといえば、桜の名所でもある白樺小学校。
その桜の風に舞う姿こそ美しい。校門をくぐれば、肩にそっと降り掛かってきて、幸せに生きるために学ぶんだよと語っているようでもある。
それは、少年小女達の新学期への期待と不安をも交えて、まるで、映画のワンシーンのように写し出されるのである。
そして、日々は流れて、日々を重ねて、学力は向上していくものなのである。

短編小説・学級委員長物語3

短編小説・学級委員長物語3


                                 短編小説・学級委員長物語1


                                 短編小説・学級委員長物語2



ここ、白樺小学校の校庭。
その校庭の片隅の、そこかしこに、新春を飾る、いくつかの梅の花が咲き誇っている。あれから、良一は変った。いつも幸治にへばりついて行動しているけれども、目立って明るい。あの時、あの場面を取り仕切った、副委員長の雪夫もまた変わった。地味な中に秘めた強かさが出てきている。幸治は、ライバルというより、最も信頼できる、相棒を持ったと思うのである。事実、幸治はよく雪夫に相談したし、雪夫もまた、これに応えて、卒業するまで、幸治を支え続けた。
とある日のこと。
「校長先生」
「ハイ、教頭先生」
「校長先生は聞いていますか」
と、田中教頭が声をかける。
「堀田邦子先生のことですか」
と、山村校長は、返事した。
「ああ、聞いてられるんですねえ」
と、田中教頭は、ホッとしたような顔をする。
堀田邦子先生のご主人が、会社の仕事で、東北に転勤することになった。
邦子先生も付いて行くという。向こうでも、先生を続けられるように、校長先生に相談に来ていたのだ。
この学校では、一年二年と、同じ先生が担任する、持ち上がり制になっていた。
当然、六年になっても、邦子先生が受けもつことになる。
「生徒が不憫ですねえ、教頭先生」
「そういえば、山本幸治君のリンドウ組は、二年の時も、先生が病気で、長期入院になりましたねえ」
「そうそう、それで二学期から、産休先生の、関本孝子さんが、ピンチヒッターで、教壇に立ってくださいましたねえ」
そう言つてから、校長先生は、当時のことを思い出してみるのである。
「本当に、不憫な生徒達だなあ」
教頭先生は、溜息をつく。

そして、数日後のことである。
この学校には、思いやりがあふれている。それは、森の温もりに似ている。厳しい冬を耐えて来た木々の強さが、支えてくれているからだろう。
やがて、校内放送が流れた。
「五年リンドウ組の、山本君、日野さん。堀田邦子先生が、職員室にお呼びです」
ガラガラ、職員室のドアを開ける音がする。
「幸治君、日野さん、呼び出してごめんなさいねえ」
「先生、話というのは」
広子が声をかける。
「二人は、もう知っているかもしれませんが、主人の都合で、私はこの学校を去っていきます」
「やっぱり」
と、幸治は言う。
「もちろん、三学期一杯は、皆さんと一緒に、勉強していきたいと思います」
「それで、私達に何を?」
広子は、先生の顔を見詰める。
「二人に、リンドウ組の生徒達のことを、くれぐれもよろしく、お願いしたいのです」
邦子先生の、目頭が熱くなってきた。
「先生」
幸治と広子に、それ以外の言葉は出なかった。邦子先生は、二人の手を強く握りしめたまま、しばし、離そうとはしなかった。

やがて、白樺小学校に、新学期が訪れた。
幸冶も、雪夫も、広子も、文香も、新鮮な気持ちで迎えることができた。
六年リンドウ組の担任は、どんな先生になるのだろうか?
クラスの誰もが、聞いていないという。
初めてのクラス会を待つより、ほかに方法はないのだろうか。
「全校生徒の皆さん、これから朝礼を行います。校庭に出てください」。
ひときわ大きな声が、校内放送で流れた。
ダダダダ、慌てて靴を履く音もする。誰もが飛び出していった。
校長先生が、壇上に立つ。
「これから、当校に着任された、先生を紹介します。上田太陽先生です」
皆のヒソヒソ話が、交わされだした。
「上田太陽です。また、この学校に帰ってきました。六年生になられた方は、よくご存じだと思います。皆さんが一年生の時、担任させていただきました。これから、共々に前進してまいりましょう」
昭夫は、幸治の袖をひっぱる。
「あの、太陽先生だ」
と、豊はささやく。
「さあ、静かにして」
と、コスモス組担任の、平塚先生が言う。
「予定として、今日は教室の清掃と、校内の草刈をお願いします。明日は、クラス会を開いてください」
「四年生は、学級委員長を、五年、六年制は、学級委員長、副委員長と、図書、放送、貯金、給食の、各委員を選出してください」
教頭先生の、甲高い声が、校庭に響いていく。

短編小説・学級委員長物語2

短編小説・学級委員長物語2


                                 短編小説・学級委員長物語1



やがて、授業はたんたんと続けられていく。
ピーンと張りのある邦子先生の声が、窓の隙間から聞こえてくる。
終業の鐘がなる。
「やーい、やーい、こいつ立たされてやがる」
「本当だ、立たされている」
廊下を通る者は皆、視線を幸治の方に向けてから、通り過ぎていく。
これは、雲ひとつない青空が広がった、晩秋の日の出来事だった。
やがて、冬休みも間近に迫ったある日のこと、六時間目の授業が終わった教室での会話。
「山本君」
と、安福良一。
「何かね。安福君」
と、そっけない返事をする幸治。
「一度、僕の家に遊びに来てくれないか」
と、良一は言う。
「お前の家か」
乗り気の無い返事をする幸治。
「だって、今まで誰も、俺の家に遊びに来てくれないもんねえ」
良一は、真剣な顔をして言う。
「そういえば、誰も遊びに行ったという話をした者はいなかったなあ」
と、幸治。納得の言葉である。
「良一、お前は全然目立たないし、第一、陰気すぎる」
「本当は、陽気なんだが」
「顔色も暗い」
「やっぱり、来てくれないのか」
良一は、溜息をついた。
ふと、幸治は、良一のことを考えてみた。考えてやらねばいけない気になった。

そうだなあ、良一とは、どういうわけか、一年から四年まで同じクラスになったことがない。幸治は一年、二年がリンドウ組で、三年、四年がコスモス組だった。
五年になってリンドウ組になった。
良一はコスモス組、リンドウ組ときて、五年で同じクラスになった。
良一のことを良く知らない。目立たないせいもあるだろう。友達もいないようだ。
弟や、妹でもいれば、多少は、寂しさはなくなるだろう。
「いいよ、俺行ってやるよ」
「来てくれるか」
うれしそうな顔をする良一。
「だけど、誰も誘っていかないよ。俺一人でいく行けど、それでもいいかい」
と、念を押す幸治。
「うん、待っているよ。学級委員長」
「それはないだろう」
と言って、幸治は笑った。
それぞれが持つ個性の良さ。
幼いゆえに、分からないまでも、体当たりで続く交わり。季節のうつろいは、それを見守ってくれているようである。

やがて、高原に雪が降る頃となる。
時にはしんしんと、時には吹雪のようになる。
それは、学童たちを、心を乱した詩人のように、心を乱した画家のようにするものなのである。あまりにも波乱にとんでいる、そんな季節の中で、名作はうまれ、学童たちは、成長していくものなのである。

短編小説・学級委員長物語1

短編小説・学級委員長物語1

夢花町の中心街を過ぎて、崖下に流れる清流を、斜めに見て、心地良い川風にあたりながら、車を走らせてみよう。
しばらくすると、はるか遠くに、白樺高原を望むことができる。
森林にさしかかる少し手前には、青紫のリンドウの花が群生していた。
リンドウ、幼き日の、思い出の花よ。
山本幸治は、この花が大好きだった。
石の階段を、一段一段上っていくと、木造と、一部レンガ作りの二階建ての、白樺小学校が見えてくる。
壮大なる自然と、ロマン漂う建物がハーモニーを奏でるのである。
町が必死になって守ってきた小学校ではある。
幸治が、小学校五年の時のことから、物語は始まる。
これ程までに厳しい、担任の、堀田邦子先生の視線を見た事はない。
この視線が、幸治の胸を突き刺した。
邦子先生は、本気で怒っているのだ。
もう、始業の鐘は、とっくに鳴ってしまっているのに、学級委員長の幸治や、山田昭夫、北田豊は、着席していないのだ。
邦子先生は、鐘と共に、教壇に立っていた。
「学級委員長は」
クラス中を見回してもいない。
「学級委員長はいません」
副委員長の、澤田雪夫が答える。
「山田君も、北田君もいません」
と川上文子が答える。
「どうしたのでしょうねえ」
邦子先生も、首をひねった。
「先生、どうしましょう」
澤田雪夫が、先生に問いかける。
「仕方がないですわねえ。副委員長の澤田君に、お願いします」
雪夫は立ち上がった。
「起立、礼、着席」
雪夫、初の代役を見事になしとげたのである。
邦子先生の、国語の授業だ。
「ハーイ、教科書を開いて」
ざわざわと音がする。
「今日は、宮沢賢治の童話の中から、注文の多い料理店を、勉強しましょうね」
邦子先生は、教壇を降りて、一歩一歩進んで教室の中ほどまで来た。
「皆は、宮沢賢治のことを、よく知っていますか」
そう言ってから、ぐるっと見渡した」
「ハイ、先生」
と、そう言ってから、日野広子は手を上げて立った。
「宮沢賢治は、岩手県花巻で生まれて」
広子の話はよどむことなく、流れていく。
その時、ドタバタ、ドタバタと、あわてて教室に入って来た生徒達があった。
昭夫が、
「先生」
と、呼吸するのも苦しそうに話しかける。
「授業は、とっくに始まっていますよ」
冷たくあしらう邦子先生。
「先生、ごめんなさい」
と、幸治も、豊も頭をさげる。
「今まで、何をしていたのですか」
と、問いかける邦子先生
幸治は、
「階段で、ジャンケン遊びをしていました。勝つたびに、階段を、一段一段上がって行く遊びです」
と、説明する。
「始業の鐘は聞こえなかったの」
「ハイ、あまりにも夢中になってしまって」
そう言いながら、頭をかく昭夫。
「許せませんね」
邦子先生は、幸治に教室を出て、廊下に立っているように命じた。
昭夫と豊は、注意を受けた後、着席するように言われる。
「待って下さい先生。僕が一番悪いんです。僕が勝ち続けていたから、引き止めていたんです」
と、昭夫。
「いいえ、学級委員長には責任があるのです。その責任を忘れている」
と、言って、再度退場を命じる邦子先生。幸治は、教室のドアを開けて廊下に出た。
プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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