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短編小説・永遠の処女5

短編小説・永遠の処女5


                                         短編小説・永遠の処女1

                                         短編小説・永遠の処女2

                                         短編小説・永遠の処女3

                                         短編小説・永遠の処女4



水平線の果てまで、光のオブラートに包まれて、まるで眠っているような海よ。
「誘い過ぎじゃないいか」
「だって好きなんだもん」
あっけんからんという。
「そんなこと、女の子から言うもんじゃないよ」
「あら、どうしてなの」
「、、、、」
口ごもる孝夫。
「孝夫さんだって、何時も付いてくるじゃないの」
「俺は、付いて行くんじゃない」
真海は笑い出した。
「お前が心配だから、守っているだけだ」
真顔で言う孝夫。真海はとうとう噴出してしまった。
「人間って、何てちっぽけな存在なんだろう」
自身に問いかけるように言う孝夫。
海は果てしなく広かった。
「うーん。違うの。海を抱いている光。あの光のようなものだと思うの。人間の生命・生命体・魂魄って」
笑顔が眩しすぎる真海である。
「海を抱く?本当に不思議なやつだ」
「あら、孝夫さんだって不思議な人よ」
真海は彼の手を握ろうとしていた。
イヤイヤをしながら、逃げるポーズをしてみせる。それを追いかけるポーズとる真海。ふくれっ面をした真海の顔がどこかかわいくてならなかった。
日々を重ねていく。時間はといえば昼休みの職員室でのこと。
「ねえ、北原先生」
「ハイ、由美子先生。何か」
確認を求めるかのように、
「真海さんの、手作りのお弁当が、相当評判になっていますねえ」
何しろ、真海が弁当を作って孝夫に渡す日には、男子生徒が二人を取り囲んで、わいわいがやがや、にぎやかなこと。真海はそれを嫌がるどころかたのしんでいる。
「だって、作ってあげたいんだもん」
それを言うと、
「だって、作ってほしいんだもの」
と、合唱する男子生徒たち。
ため息が流れる。
「見た目も良くて、きっと美味しいんだ」
北原先生の羨ましそうな声が、由美子先生には腹立たしかった。
「俺も言っちおうかな。だって、作って欲しいんだもん」
「先生ったら、もう」
北原先生は、真海が愛おしくてならなかった。美人のくせに、変に気取ったところがない。それどころか、誰にも気さくに声を掛けてくるから、誰も憎まない。
元気の無い時のクラス委員の和夫に、
「和夫さんが、心配で心配でたまらないの」
と言われた分には、和夫、そのまま廊下に屁たりこんでしまったのである。
「俺も、和夫みたいに、せんし甘ったるい声で言われてみたい」
「北原先生もどうかしている」
馬耳東風である。
「いいですか、先生」
「はい」
「学校がまるで、二人のままごと遊びの場所になっているんですよ。そこのところ分かっているんですか」
「ママゴト遊びの場所ですか、いいこと言いますね。由美子先生は」
北原先生は、真海という生徒をよく理解していた。何と言っても不思議な女なのだ。計りしれない奥深さを秘めているのだ。真海にとって、彼と愛を育む場所が、たまたま学校だったということに過ぎないのである。
「もし、私と由美子さんが愛し合うようになったら、そう職員室は二人の愛の巣になりますね」
「そうですわねえ」
「それを、由美子先生はいけないと言うなら、私は由美子先生を嫌いになります」
彼女をみつめたまま動かずにいる。
「まだ愛しても下さらないのに、先に嫌われてしまうなんて」
とうとう、愚痴を言ってしまったのだ。

そして、季節は巡り、また秋がやって来たのである。秋の運動会と言えば、何といっても
パン食い競争に、二人三脚リレーであろう。
和夫を始め、心ある者達は、真海とのツーショツトを願っていた。
パン食い競争では、孝夫と幸子が、和夫と真海がペアを組むことになった。
二人三脚リレーになると、真海は北原先生と、孝夫は由美子先生とペアを組んで走ったのである。
北原先生と、由美子先生の飛び入りの参加は、相当のブーイングを受けたのである。
特に、北原先生へのブーイングは異常であった。
先生は、厚かましくも、真海との手を高々と上げてガッツポーズをするのであった。日程は順調に消化していった。
真海はまるで、全日程の終了を見届けるかのように、目眩をして倒れてしまったのである。
茣蓙の間で休ませようとするクラスメイト。孝夫は抱きかかえるように、職員室に向かった。心ある者達が心配そうに付いて行く。由美子先生は、保健室に戻って休息できる準備にとりかかった。
「真海、大丈夫」
と声を掛ける幸子。心配そうに顔色を伺う和夫。由美子先生は、冷やしたタオルを頭部にあてがうのだった。
「ウ、、、ウ、、、」
言葉にならない声が不安を増大させていく。
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短編小説・永遠の処女4

短編小説・永遠の処女4


                                         短編小説・永遠の処女1

                                         短編小説・永遠の処女2

                                         短編小説・永遠の処女3



日々を重ねて、やがて晦日となる。
「由美子先生、こんにちは」
真海は、小林家の玄関のドアを開けていた。
「あら、真海さん。今日はデートじゃなかったの?」
彼女を冷やかす由美子先生。
「まあ、先生ったらいやですわ」
次に真海は来訪の趣旨をのべた。
樋口一葉について、色々と教えてほしいことがあるみたいだ。真海が、一葉の生き様に大変興味を持っていることは、国語の授業中、受けた
質問から理解していた。しかしこれほどとはおもわなかつた。一葉のどこに引かれたのであろうか。
「先生、なつが世に出るキッカケになったのは」
真海が問いかける。
「なつ、十四歳の頃、萩の家入門が大きかったと思います」
楽しそうにこたえる由美子先生。
「その、萩の家というのは」
「中島歌子が主宰する歌人の集まりです」
話題はどんどん進んでいく。
一葉ほど、社会の矛盾とそれに絡む女性の苦しみや、悲しみ。それを性『さが』というのだろうか?。優美に綴る女流作家はいないだろう。明治を代表する女流作家を表現する時、与謝野晶子は、文学界の貴婦人。下田歌子は怪物。樋口一葉は貞女と述べておこう。性格は一途にして健気である。真海は一葉の性格に似ていると思える。
「ねえ、真海さん」
「先生なにか」
「聞いてもいい」
「どうぞ」
話題はクラス委員の和夫と孝夫の比較に移っていく。
「真海さんは、孝夫さんが好きだって評判になっているけど」
無表情を装って言ってみる由美子先生。
「まあ、先生ったら」
困惑する真海。
「和夫さんて、頭が良いけど、どこかクールすぎるところあるわよねえ」
「冷たく感じられて、近ずきがたいのねえ」
と言った後、うなずく真海。
「孝夫さんて、秀才って感じじゃないけれど、大らかで、優しく包んでくれるような、そんな感じするのよねえ」
先生も大変気に入っているようである。
「そうなのよ、そうなのよ。そんな孝夫さんに参ってしまったの」
真海も同調する。
「あら、あら」
先生は笑った。
笑いのなかに、二人の女性が見詰めようとしているもの、それは、男の純情『一人の女性を一途に思う、純粋なこころ』だったのだろうか?
新学期に入って席替えが行われた。こんな時は教室中がざわめくものである。
見詰める顔と顔。色々の表情が見うけられるのもこの時である。
真海には、孝夫の隣りの席が宛がわれた。真海は嬉しくてたまらなかった。孝夫はというと、照れくさいような、はずかしいような、複雑な表情をしていた。
なんといっても真海はマドンナである。男の子の『憧れの君』なのだ。
孝夫が妬まれるのは当然である。

では孝夫はというと、ちょっとは女の子に人気があったから、真海を妬む者もいた。
孝夫は相当気に病んでいたようだけど、真海はいたって明るい表情のままだった。
きっとこの日からだろう、真海が時々、手作りの弁当を差し出すようになったのは。
その時の孝夫の表情ったらもう、顔を真っ赤にして頭をかいているではないか。
男の子達が二人の周りを取り囲んでしまう。
「だって好きなんだもん」
真海はいたって天真爛漫である。
男の子達もつられて、
「だって好きなんだもん」
おうむ返しに言うのである。
四月といえば新年度。新しい学年になって四―五日をすぎた頃の事である。
真海は孝夫の家に遊びに行った。
「二年生だよ」
と孝夫が言えば、
「一緒だよ」
と答える。
「そうだねえ」
頭をかく孝夫。新しい教科書が真海から孝夫に手渡された。
真海が町の中心街にある書店で購入して来たのだ。
青葉茂る五月三日。
二人揃って遠出した。
「まあ綺麗」
真海は大声で言った。
灯台から遥か遠く、太平洋の彼方を見詰めている二人。青い空に、青い海は似合わない。
燦燦と降りそそぐ光のなかで、まるでオブラートに包んだように海は抱かれているのだ。
「来て良かった」
「真海は俺を誘いすぎる」
文句を言う孝夫。
「じゃ、来てはいけなかったの」
「いや、来てよかったよ本当に」
海の彼方を指差す孝夫。

短編小説・永遠の処女3

短編小説・永遠の処女3


                                         短編小説・永遠の処女1

                                         短編小説・永遠の処女2



ランチは彼女が用意してくれた。
孝夫の膝の上に絹のハンカチーフをおく。
手作りのサンドイッチがなんとも言えない見事さである。
「レモンティーはどうです」
「えっ、どうして、ぼくの好きなものを」
「コーヒーよりレモンティーが好きなあなた。そんな孝夫さんを想像してみたの」
「レモンティーってどこか初恋に似ているね」
孝夫は言葉を返した。
「レモンティーにはサンドイッチがよく似合う」
真海は言葉を返した。
二人はよく語りあった、よく笑った。二人だけしかいない草原。
小川のせせらぎが少し羨ましそうに、おいでおいでと言っていても、行く必要などない。心と喉元は満たされていく。それは、風がそっと優しく頬をなでていく季節のことだった。
さて、長い夏休みを二人はどう過ごしたのであろうか。
湿気が少ない暖かい風土が生かされる季節。それが今である。
地元の人達なら誰でも働き盛りの季節であることをしっている。
少年少女達は家事にかり出されていく。

太平洋が一望できる高台より、遥かかなたの海を望めば、小型船が何台か煙を上げて通り過ぎて行く。時にはタンカーが通り過ぎて行くこともある。
孝夫は一人ポツンと海を見詰めていた。真海は祖母の待つ、母の実家へ行っているようである。
どうも毎年恒例の事らしい。
「伊吹山の麓の町だよ」
としか教えてくれなかったのである。
どうも真海の体質に合っているようである。
火照るような熱き感性が程よくゆっくりと、そっと冷ましてくれるような、風と森の優しさがあるようだ。山を仰ぎみれば心がおおらかになるという。真海は満たされた思い出で宿題と休息の日々を重ねていった。
お盆も過ぎある日のこと。真海は体調の異変に気が付くのだった。どうも疲労の回復がはかばかしくないのである。以前なら遊び疲れても、一晩ぐっすり眠りさえすれば、爽やかな朝を迎えられたのである。だるさが抜けきらないのである。
真海は一抹の不安をかんじた。

「真海、どうしたの」
祖母が心配するようになったのもこの頃からだ。生まれ出る悩み。
この深きものの為に、物語は作られるのである。
羽豆岬から伊勢、志摩を見渡して、渡りたいけどわたれない篠島、日間賀島。フエリー乗り場から、泣く泣く恋人を島へ帰した日。『未練の波止場』も泣いていた。
そんな、思い出を持っている父、孝明。
父にはそれなりの愛と涙と別れがあるのだ。
娘の真海にはこんな悲しい思いはさせたくないとおもうのである。
さて、冬休みといえば、なんといっても餅つきが忘れられない。
山名孝夫の家では、杵でもち米、ぺッタンコ、ぺッタンコとついている。これは家族総出で、大変な行事なのである。熱々の餅にきな粉をつけたり、ぜんざいにして食したり、もうこれは贅沢と言うべきであろう。真海は前前日、孝夫から聞きだしていたので、内緒で訪問したのである。
孝夫は一瞬と惑ったけれど、父親と母親の喜んだこと、喜んだこと。
まるで、娘が出来たみたいにはしゃぎ回るのである。
「お父さん、焼き餅が膨れていますよ」
と孝夫が言う。
「あら本当だ、おとうさん」
真海は答えた。
縁側に腰掛けて、お父さんと仲良く食事をする真海。
冬の陽射しはことのほか暖かかったようである。

短編小説・永遠の処女2

短編小説・永遠の処女2


                                         短編小説・永遠の処女1



知多半島の南知多には分校がある。やがて分校に、春紅葉の、花催の頃を過ぎて
やがて、新入生を迎える頃となる。
校内には新入生を迎えて、ピーンと張った糸のような、そんなムードが漂っている。
真海は校庭に佇んで、満開になった桜を愛でていた。新入生にとって、桜はまぶし過ぎる花のようである。
「蕾みの頃は大好きだったけれど、やがて哀れなほどに乱れて散るから、そんな桜を見ると、涙が溢れそうになるの」
桜の木に話かける真海。
「桜よ、お前の散る哀れさが、乙女のような、蕾みの頃を思いださせてくれるから、涙を誘うんだね」
孝夫も桜に話かけた。
「だあれ、あなたは」
少し驚いた表情の真海。
「ああ、俺か。孝夫。山名孝夫っていうんだ」
「ごめんなさい、私、新入生だから」
申し訳なさそうな顔をする。
「一緒だね」
「あら」
二人は顔を合わせて微笑んだ。
「よろしくな」
孝夫は手を差し出した。
真海は少し恥ずかしそうに、
「こちらこそ、よろしく」
二人の手と手が重なり合っていた。
「でも、不思議な人」
真海は笑い出した。
「どこが?」
理解に苦しむのである。
「そうよ、何もかもね。私にとっては」
真海はまた、笑い出した。
孝夫のふくれた顔が、何故か可愛らしいのである。

知多半島は、豊かなる故郷。知とは知恵の豊かさ。多「た」とは幸福の多き豊かさ。
渥美半島と共に、まるで乙女を抱くように三河湾を抱く。そんな、故郷が、真海は大好きだった。忘れられた、美しき大地に今、太陽の光は、燦燦とふり注いでいる。
潮風が柔らかに耳をくすぐる。教室の窓を開ければ、流れくる音のメッセージ。
遥か遠く、太平洋の彼方まで、届けとばかりに、明るい歌声が追いかけてくる。
「歌うことは喜び、心の癒し。声を出せば朗らかになる。それに頭の体操になる」
北原先生の張りのある声。教室中がざわつく。
「音楽って、頭の体操になるんですか?」
質問する幸子。
「脳を刺激することは良いことです。それには、声を出すことです」
真海は不思議な先生だと思った。
「先生、音楽の時間です」
クラス委員の和夫が声を掛けた。
「そうだね、まあついでにもうひとつ言っておこう。声を聴くとその人の健康状態がわかるという」
また、ざわめきが上がった。北原先生は、壇上を下りてピアノの鍵盤をたたいた。それは、
バラードなのだろうか。伝説のなかに秘められた悲劇。永遠の愛を誓う二人の物語のようでもある。あまりにも悲しいピアノの調べに、真海は一敵の涙を流さずにはいられなかった。それは、遠い過去に聴いた私の葬送曲。真海が夢の中で見た叙事詩なのである。愛する人に裏切られ、湖に身を投げる薄幸の乙女が浮かんでくる。なな、なんと見事な手さばきなのでしょう。北原先生にとってピアノは何なのでしょう。恋人それとも愛人。真海はそっと涙をぬぐうのだった。
「真海さん、どうしたのですか」
ビックリしたような先生の顔。
「そうよ、何故かしらピアノが、私を泣かせしまったの」
愁いに満ちた彼女の言葉は、級友を魅了した。
「なんと豊かな感性の持ち主なんだろう。こんな人ははじめてだ」
少し大袈裟過ぎる、ポーズをとりながら、北原先生はほとほと感心したのである。

少し日々は流れる。
白い帽子をかぶり軽やかに飛び跳ねる。後ろ向いては笑顔を振りまく真海。手を振る仕草は何とも愛苦るしい。
まるで夢でも見ているような、緑の草原での一コマ。
山名孝夫は真海からピク二ックに誘われた。どうして俺を?思案してはみたものの答えでてこない。
見る人の心をとらえて離さない美しさに、もう聞くまいと心にきめた。
白い帽子には、黄色いワンピースは似合わない。青く澄んだ空と、緑の草原を駆けめぐるとき、この世のものとは思えない、永遠を観た様な、そんな気分にさせられたのである。
「あらどうしたの、孝夫さん。涙ぐんでいるわ」
真海はと惑った。
「悲しすぎるよ、この美しさわ」
孝夫は語気をつよめて言った。
「悲しい?」
問いかける彼女。
「二度と見ることが出来ないシネマを見ているから」
「まあ、孝夫さんたら、やっぱり不思議な人」
彼女は笑った。
やがて、孝夫の言ったことは現実となっていくのであるが、今は知るはずもない。
自転車は軽快に、起伏を乗り越えていく。

短編小説・永遠の処女1

短編小説・永遠の処女1

そうね、どんな名前を付けてあげたらいいのでしょうか。
こんなにも愛しくさせる娘には。
その人の名は真海『まなみ』と言う。
少女と呼ぶにはあまりにもふくよかで、乙女と言うにはあまりにも美くし過ぎる。
長い髪が風になびけば、スラリとした長身が、ひときわ際立ってしまう。
通り過ぎれば振り向いて、「君の名は?」と、訊ねた人も居ると言うのである。
「生まれは?」と聞かれれば、遥か彼方に太平洋が一望できる知多半島の高台の一軒家で育ったのである。
遠條真海には、香織という母親がいる。
親に似ぬ子は鬼っ子と言うが、これは真海をふた回り年増にした貞女と書いておこう。
ちっょと涙もろい所が欠点ではあるが、それが又、妙に色っぽく感じられるのである。
真海は一人っ子であるが甘やかされて育ったと言う事はない。
岐阜県と滋賀県の県境に、伊吹山がある。
伊吹山の麓に、滋賀県側の町の部落、春照『みずてる』という部落がある。
いつの頃に作られたのであろうか。
ここに分教場があった。生徒といえば一学級十五名。四年生まで在校していた。
総数にしてわずか六十名そこそこの小さな学校である。
真海の母親香織は、この分教場に近い民家に生を受けた。
幼い頃の香織にとってこの校庭、そう本当に小さな校庭は格好の遊び場だった。
兄や姉のいない香織には、この学童たちが兄姉のようだあった。
「ねえ、お兄ちゃん」
と言って甘えても、誰も叱りはしない。
手を引っ張ってブランコに連れて行っても、困った顔をしてもイヤとは言わない。
幼かったけれど、人を慕う心は満ち溢れていた。
香織が以前真海に語った事がある。
「どうして、あんなにも人が愛しく思えたのでしょうね。あの頃の私は?」
楽しそうな語り口に、真海まで引き込まれてしまった。
「そうね、本当はお母さん欲張りだったのよ」
真海は返答した。
「きっと、分教場そのものが、私の家族だったのよ」
「まあ、天真爛漫なんだから」
「もう一度、帰ってみたいあの頃に」
段々、声が小さくなって行く香織である。
「あらあら、お母さんたら、まるで駄々っ子になったみたい」
「だってさ、真海」
急に、目からなみだが溢れ出して来た。
香織にとって真海が成長して行く様子は嬉しい事に違いないが、何分一人っ子である。
いつか、娘がどこか遠くの世界へ行ってしまう様な幻想に捕らわれたのであろう。
真海十五歳、中学校の卒業式を済ませた翌日、二人は祖母の待つ、この春照を訪れていた。

次回予告

次回予告

皆さん、お元気でしたか。
鹿鳴館の淑女たちはいかがでしたか。
鹿鳴館を舞台した小説は、機会があれば又、掲載してまいりたいと思います。
次回の予定といたしまして、
「短編小説、永遠の処女」を六月十三日頃より掲載してまいりたいと思っています。
これは、ずっと以前に、文芸春秋に投稿した原稿より、舞台を伊勢志摩地方や、五箇所湾ではなくて、新しい地方、舞台を見つけ出してみたい。
そして、ここ数年来、消えることなく、思い出す事は、
純愛に生きたあと、人は一人になって、どう生きていったら良いのか、どう生きていくのだろうか。私の脳裏から消えずに続いたままでした。
終盤では、それから孝夫はどう生きたかを加えていきたいと算段しています。
季節の変わり目、くれぐれも体には気をつけて過ごされますように。

俳句・早朝の杭瀬川・参題

俳句・早朝の杭瀬川・参題

(一)
ジョギングに
朝の散歩に
杭瀬川

(二)
杭瀬川
声かけあえる
人が増え

(三)
「懐かしい」
橋の袂で
御あいさつ


思い出は、今も美しく、輝いているのか?
七十~八十歳の人が、散歩に、ジョギングに訪れる姿が多く見られるよになりました。
その笑顔も輝いていて、私は「美しい老春」と語りたくもなるのです。

平成二十四年六月三日・朝、作。

随筆・花酔・花に酔いたくて今宵も

随筆・花酔・花に酔いたくて今宵も

花は紫陽花の花がいい。
紫陽花は、貴女の花、貴女だけが似合う花。愛しき花よ。
忘れられない、恋を宿した花よ。
花よ咲け咲け、雨に打たれて。
人の世の非情の雨に打たれて咲けばいい。
その哀れさが、切なさが、なお更、重なるばかりに、
涙の雨になるなら、
紫陽花の花は、雨に打たれて咲いてこそ美しい。
別れることの悲しみも、生きることの苦しさも、
みんなこの花に託して乗り越えてきた。
人の世の定めと、非情さに涙を流すなら、
紫陽花の雨、雨と共になみだを流してしまおう。
紫陽花は貴女の花、貴女だけが似合う花。
思い出の、恋を宿した花よ。
雨に打たれて咲いている、紫陽花を見たなら、私はきっと泣いてしまうだろう。


平成二十四年五月二十九日作
プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

最新出版物
白浜砂夫の電子書籍




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