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短編小説・交換日記はいかがです10

短編小説・交換日記はいかがです10


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あくる日、放課後の職員室。電話が鳴った。
晶子が受話器をとった。
「晶子先生。留美湖です。もう直ぐ、学校に行きます」。
「まあ、有り難う」。
晶子は受話器の前で頭を下げた。
「それで、どう、お母さんとは、まだ、交換日記を続けているの?」。
「ハイ、暫らくは続けようと思います」。
嬉しそうな声。
「まあ、いいわねぇ。私も、交換日記をする相手が欲しいわ」。
「先生、失礼します」。
留美湖も、受話器の前で、頭を下げていた。
夏の陽射しが、やけに眩しい。
今日は、雲ひとつ無い青空である。
麦わら帽子をかぶって、公園に出掛けた。
喜一郎は、何か1つの事をやり遂げた、喜びに浸っていた。
何よりも、彼女が、私に与えてくれた、教えることの喜び。
教えることが出来た喜びが、そこにはあった。
喜一郎といえば、唯の詩歌人に過ぎない。
優れた人物と言うほどの者ではない。
彼もまた、そのことを意識して、彼なりに、勉強もした。努力もした。
留美湖が学校に行くよいになって、一週間が過ぎていた。
友人の孝子とは、以前にも増して、仲良しになっていた。
「留美湖は変わったね」。
と孝子は言った。
さて、何と答えたでしょうか?。
「人は、そう簡単に変われるものじゃないよ」。
「そうだよね。私は私だもの」。
と孝子も言う。
やがて、二人は目と目を見詰め合って笑った。
留美湖は、喜一郎や、晶子先生、母親の佐和湖に、この青空のように、大きく包まれて、守られていることを知ったからである。
その頃、晶子は喜一郎の家を訪ねていた。
古い木造の、瓦葺では無い玄関。
平屋建てではあるが、如何にも名家と思わせるような、凝った作りである。
小さな庭園ではあるが、花に包まれているのである。
喜一郎は、幼少の頃、母の胸に抱かれて、この花園を散歩したものである。
晶子は戸を開けた。まるで、敷居さえも低く、私が出入する事さえ、まるで当たり前のような、雰囲気があった。
「喜一郎さん、私も」。
「私も」。
ちょっと身構える喜一郎。
「私も、交換日記がしたいですわ」。
「だれと?」。
怪訝そうな顔をする喜一郎。
「勿論、決まってますわ。喜一郎さんですわ」。
「私。私とですか」。
「あら、意地悪なこと。私を悲しませないでくださいね」。
喜一郎は、戸惑った。
彼の困った顔が、微笑ましく、また愛おしく思えてならないのである。
彼への、熱き恋心、言葉で伝えきれない弱き心。
由香里さんに奪われてしまった事さえ、自身の罪だと責め続けてきたのである。
「私の思いが、喜一郎さんに伝えきれないの」。
と晶子。
彼女の目から涙が溢れてきた。
喜一郎は、驚きながらも、晶子をこの手で引き寄せて抱きしめた。
拒否しない晶子に、本心を見て取ったのである。
晶子は、抱き締められたまま言った。
「交換日記はいかがです」。





(了)



ご愛読、厚く厚く御礼申し上げます。
新春が、皆様にとって良い年であります様に、お祈り申し上げます。
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和製吟遊詩・涙のダイヤモンド

和製吟遊詩・涙のダイヤモンド

涙の数ほど、歌を作ろう
星の数ほど、歌を作ろう
歓喜を求めて、歌を作れ、
歓喜の彼方に、星座は煌めく

ああ、歌は永遠、愛も永遠
嘆き悲しまないで
ああ、歌は永遠、愛も永遠
今の挫折を糧に
ああ、歌は永遠、愛も永遠
絶望を越えて行け

涙のダイヤモンドよ、歌は美しい
貴女よ歌え、心の命ずるままに
涙のダイヤモンドに、愛(人類愛)は煌めく

俳句弐題3・雪

俳句弐題3・雪 

(一)

初雪と
白雪(はくせつ)に消ゆ
伊吹山


「注」白雪(はくせつ・しらゆき=白い雪)
春は春で、秋は秋で、辛い時も、悲しい時も、仰ぎ見ては、自身を鼓舞し続けて来た伊吹山。
今日、二十六日の朝。積雪の中を歩く。譬え見得なくても、伊吹山は伊吹山なのだ。


(二)

あな うれし
白雪(はくせつ)包む
美濃の原


「注」原(はら=平やかな大地)
私は信じたいのです。
この白雪が、美濃の大地に、限りない豊かさをもたらす、出発点になることを、ただ、ただ、その事を。
白雪こう、仙台では(さんぎがし)、という美味しい、乾菓子があると、文献に書かれてある。

短編小説・交換日記はいかがです9

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佐和湖は、再度喜一郎の家を訪ねたのである。
喜一郎は、まだ外出先から帰っていなかった。
この家にいるのは、弟子の登美子一人らしい。
佐和湖、
「ねえ、ねえ、登美子さん」。
「何ですか、古都さん」。
「九条さんと、晶子先生とは、どんな関係なんですか?」。
探りを入れる様に、登美子の顔色を見る。
登美子はその視線に、堪らなく嫌悪感を覚えずには居られなかった。
「人の仲に、口を挟まないほうが良いと思いますが」。
「晶子先生が、留美湖や、私に話す言葉と、九条さんに話す言葉とは、明らかに違いがありますわ」。
登美子は、うんざりした調子で、
「先生が、私に話す言葉とも、違いがありますは」。
そう言ってから、お茶を用意する為、席を立った。
「先生、もう直ぐ、約束の期限が、来てしまいますが」。
佐和湖は、喜一郎が、席に座ることさえ待てなかった。
「まだ、時間があります。何事においても、余裕を持つということは大切なことですよ。特に、子供を育てるということは、長い目で見守り、成長を愉しむ姿勢が大切だと思います」。
「御免なさい、先生」。
佐和湖は、直な気持ちで謝ることが出来た。
喜一郎、
「いやーあ、言い過ぎたかな。ご免」。
頭を掻いでみせた。
「まあ、先生ったら」。
佐和子は、笑い出してしまった。
「何よりも、お子さんにとって、お母さんの笑顔が、生きるパワーになるのですから」。
「そうですわねえ」。
「交換日記を書くというのも、一つの方便です」。
佐和湖は、大きく頷いた。
晶子が、留美湖を訪ねたのは、彼女が喜一郎の家に通うようになって、三週間に入った頃の事だった。
「どう、留美湖さん。がんばっている」。
留美湖は無言のまま、晶子先生の顔を、じーっとみつめていた。
「どう、詩はうまく書いてる」。
「そういうことじゃないと思います」。
留美湖はつけんどんに答えた。
晶子先生は、身構えるように、
「詩を作るって、難しいでしょ」。
「頑張っているとか、巧いとか、難しいとかの問題じゃないと思います」。
「どういうことですか」。
「何か、早く早くと、せき立てられているように聞こえます」。
「私には、分からない」。
晶子先生は、理解に苦しんだ。
「私には私の、生き様や、ペースがあるはず」。
留美湖は涙ぐんだ。愛情の絆、愛情のリボン。大好きな晶子先生から、そんなことが、しみじみ感じられる言葉を待っていたのかも知れません。
「そうですわねぇ、貴女には貴女なりの、積み重ねていくやり方があるはずですわねえ」。
晶子先生は、直ぐに結果をもとめたがる、自身を恥じた。
少し間を置く晶子。
「学校には登校出来るかな」。
少しトーンを落とす。
「九条先生との、約束の期限が過ぎれば、必ず行きます」。
留美湖は、きっぱりと言った。
心の中では泣き続けていたに違いない。
「晶子先生は、言ってくれないのですか。貴女の居ない教室は、何処か寂しいものがあるのですと。私は、その言葉がほしかったのです」。
留美湖の、呻くような言葉だった。
昨日も、今日も、そして明日もそうだろう。
留美湖は、喜一郎と向き合っていた。
明治三十三年というものが、どれ程の、意味を持つものか。
それは、単に、二十世紀の始まりというだけでは、済まされるものではない。
俳界の巨匠、正岡子規が亡くなった年であり、詩歌の世界では、新星、与謝野鉄幹、晶子が、大活躍を始めた年だからである。
正に、文学界の、一大転機の年といっても良いだろう。
どう表現すれば、留美湖さんに、理解してもらえるか、喜一郎は悩んだ。
それを、若過ぎるからとか、まだこれからの人だからと、語らないのも、自身の主義に反すると思いのである。
「先生。晶子が三十四年に発表した(みだれ髪)は衝撃的ですね」。
留美湖が話しかけてくる。
最近、色々と質問するようになって来ていた。
教えて欲しいこと、聞きたいことが、一杯出てきたのであろう。
喜一郎、
「私は、今、与謝野晶子の詩歌を、研鑽しています。勉強しています。一つ一つの詩歌は独立していますが、晶子の詩歌の全体から見れば、やはり、一連の哲学があることが、読み取れます」。
「先生、難しすぎます」。
留美湖はエンペツを、机の上になげた。
ちょっと難しい、表現だったか?。
「では、鉄幹のことを知っていますか」。
「ハイ、承知しています」。
「それは、大助かりです。では、山川登美子のことは」。
「ハイ」。
留美湖の顔に赤味が挿してきた。
もし、鉄幹と登美子が結婚していたら、晶子の存在はなかったであろう。
また日本の文学界も、違ったものになっていたであろう。
「晶子にとって、詩歌とは、大恋愛を、高らかに歌い上げるカンパスだったのです。詩歌こそ、今を生きている、自身の証明だったのでしようねえ」。
「私も、この世に生きていることの証明を求めたくなることがあります」。
留美湖は、喜一郎の、心を理解した。
「書き続けていきましょうよ。歌い上げて行きましょうよ。悲しいときには、悲しい歌を。楽しいときには、楽しい歌を。愛に生きてる今には、愛の歌を。詩歌とは、内なる心の叫びなのですから。その、叫びこそ、人生の讃歌ではないでしょうか」。
喜一郎と留美湖は、その後、美味そうにお茶を飲んだ。
「喜一郎さんは、二人の晶子さんに、惚れ込んでいるのですねぇ」。
小さい声だけど、何故かよく聞こえた。
「うーん。やっぱり惚れているのかなあ」。
「やっぱり」。
と留美湖。
二人は、声を上げて笑った。
約束の、一か月まで、後三日に迫っていた。

短編小説・交換日記はいかがです8

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晶子は、喜一郎の家を訪ねた。
「九条さん、留美湖さんはがんばっていますか」。
晶子は、質問した。
「そうですねえ。始めのうちはと言うと、腰が据わっていないというか、落ち着きがありませんでしたねえ」。
晶子は、無言で聞いていた。
留美湖が、喜一郎の下に来た頃は、相当、突っ張っていたし、反発もしていた。
言葉の一つ一つが怒りにみちていた。
それが、他人に向けられたものでないことは、留美湖自身が、一番良く知っていた。
喜一郎は、留美湖がとても可哀相な、少女に思えてならなかった。
「詩や和歌の魅力は、何処にあるのでしょうか。」
晶子の目は、喜一郎に注がれていく。
その眼は、愛をしむ眼でもあった。
「難しい質問ですねえ。でも、とても良い質問だと思います」。
晶子と、由香里は、学生時代からの、仲良しだった。
由香里が、喜一郎と結婚してからも、よく遊びにきていた。
詩とはなにか、和歌とはなにか。歌い上げるその心とは何か。
二人は食事をしながら、よく語り合ったものだ。
それは、喜一郎という、共通の話題があったからでもある。
「詩歌を、書くとか、描くとかいうのでなくて、歌い上げると言う、その心は、詩歌の持つ、生き抜くことへの、人生の讃歌であるかだと思います。人生を生き抜くことを最大に讃え、一人一人の存在が、どれほど素晴らしいものであるか。それを讃歌して行く責務を持っているからでしょうねえ」。
「それを、情熱と言って良いのでしようか」。
と晶子。
「それだけの、小さな表現で語れるものではありません」。
「では」。
「詩歌そのものが、魂の叫びであり、詩歌そのものが、奥底に永遠を包んでいるもです。詩歌の道に、通じてくると、多少ではあるが、森羅万象の出来事を、予め、読めるということも出来るでしょう」。
晶子、語る言葉がない。
それでも、
「喜一郎さんは、詩歌をよく、朗読しなさいと、言われますが」。
「詩歌が、内なる魂の叫びである以上、朗読したほうが、心の奥底が良く理解できるとおもいます」。
晶子は思った。
喜一郎さんいう、永遠のロマンスへのあこがれとは、魂と魂(生命)で結ばれることを言いたいんですねえ。
この晶子の、思考が喜一郎につたわらないわけがない。それは、人を愛すると言うことは、人の、心の奥底まで分かるということでもある。
晶子は喜一郎の詩歌が大好きだった。その心は今も変わっていない。
「熱き思いなんて、いえない」。
と晶子。
「今、何て言ったの」。
と喜一郎。
留美湖さんのことで訪れたというのは、半分は言い訳だったのでしょうね。
佐和湖と、留美湖の、交換日記は日々を重ねる程、回数を重ねる程、味わい深い長文に変わっていった。
時には、胸を締め付けられるように、互いが、それぞれの時間に、読み続けて来たのである。
そんな中で、約束の一カ月は、後八日に迫っていた。

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私の推薦一歌

私の推薦一歌

母の齢
はるかに越えて
結の髪や
流離に向かう
朝のごときか

(馬場あき子・飛花抄より)

解説
私は母が亡くなった年齢を越えて、今、髪を結い上げています。
これから、何にもとらわれない人生を生きていきます。


結う髪で、女性を強く打ち出しています。
流離をさすらう、さまよいゆくと、
とらえるのではなくて、
何にも囚われない、わが道を行くととらえて下さい。
そうすれば、女性の潔い、
覚悟のある生き様が浮かび上がってきます。
朝を出発するととらえてみましょう。

和歌弐題4

和歌弐題4

(一)

東北の
大地は雪か
大雪か
思いは乱れて
はや年の瀬に

3・11を永久に忘れないで行きたいです。


(二)

スーパーの
棚から米が
消える日は
年金が出た
一日限り

十二月十五日、年金が出ました。
米さえあれば、米さえあれば何とかなる。
そんな考えで買い物をした庶民たちでした。

短編小説・交換日記はいかがです7

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「先生、手紙ではいけないのでしょうか」。
佐和湖が質問する」。
「手紙ですか」。
喜一郎は、少しの間思案した。
そこで、医学博士、野口英世の母、シカの手紙での逸話を聞かせた。愛情溢れる、母の手紙が、どれ程英世を奮い立たせたでしょうか。
「しかし、手紙は一回限りののことが多い。連続性がない。そこだね、私のいいたいのは」。
と喜一郎。
「連続性ですか」。
佐和湖は半ば納得したように答える。
「お子さんの、悩みや、悲しみが深いほど、それだけ、長い時間を架けてあげることが大切ではないでしょうか」。
理解を求める様に、話をする喜一郎。
「良い結果が出るといいですね」。
佐和湖の顔にさす、薄っすらとした紅。それが、とても美しく、眩しく感じられる、午後の、応接室での、会話だった。


それから少し時が流れた。
喜一郎の元に、佐和湖から手紙が届いた。白い封筒に、墨書した宛名がやけに眩しかった。
喜一郎は、佐和湖の、教養の高さを知った。この事が、事の、大変さを、思い知ることにもなったのである。
先生には、ご苦労の掛けっぱなしで、真に申し訳なく思っています。過日より、御指導頂だきました通り、交換日記を始めましたところ、娘の留美湖に、何か心境の変化が見られるようになりました。
「おはよう。おやすみなさい」。
と言ってくれるようになったのです。忘れていた言葉、忘れ去られた言葉ですわ。
そんな事位ですけれども、私には大変嬉しいことなのです。
先生の言われた通り、愛情を持って接していこうとおもいます。
先生、心にも季節があるのでしょうか。まるで、心の春が巡り来たような、そんなムードさえ漂っているのです。留美湖が始めて、交換日記を書いたのは、喜一郎の家に出入りするようになってから、ほんの暫らくしてから事だった。
作歌に励む様になった時と、同じくしている。
便箋一枚に書かれた内容はといえば、五字で一行、七字で一行、五字で一行、七字で一行、七字で一行。これでは、空間が多すぎるかしら思うほどである。
自作の、和歌なのであろう。
添え書きが有った。(私は、和歌を、敗北者の歌だとは思いたくありません。何故か、私だけが、止まっていたような毎日に、前を向いてあるいて行こうと言ってくれているような気がします)。娘は詩歌に希望を見出したのであろう。だから、私は、敗北者にならない。
娘は、そういいたいんだ。佐和湖は、独自の解釈をしたのである。
そんな、解釈ではあるが、的外れとはいえない。詩歌の奥深さは、察して余りあるものがあるからだ。佐和湖の心は踊った。頬をつたう涙を拭うのである。
娘が、堪らなく恋しく思えるのである。
それは、夕食の支度に掛かる前のことであった。

短編小説・交換日記はいかがです6

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あくる日の午後、古都留美湖は、簡単な昼食を済ませた後、私服に着替えていた。
何を持って行っていいものやら、さっぱり見当がつかない。
思案の挙句、何も持たずに出掛けて行くことになった。
玄関を開けて入る。
「九条さん、どうして私に会いたいというんですか」。
つっけんどんに言ってみる。
「ハイ、とても会たかったですよ」。
喜一郎は、笑顔で答えた。
「私は、会いたくなかったんですけれど」。
「私は会いたかった。それでいいんじゃないですか」。
「あんたなんか、大嫌い」。
と強がりを言ってみる。
「私は貴女と、唯、詩心を語り合いたかったから」。
と喜一郎。
「詩、詩ですか」。
と念を押す留美湖。
「そうです。例えば、島崎藤村や、石川啄木、北原白秋など、詩歌の世界です」。
「やわらかに、柳青める北上の」。
と留美湖は歌いだす。
「岸辺目に見ゆ、泣けとごとくに」。
と続けて二人は合唱した。
「でも、今どうして、詩なんですか」。
「私が、詩歌以外に、素養が無いからです、唯、それだけのことです」。
「えらく、簡単に言いますねえ」。
留美湖が持っていた、妙な期待は、完全に外れたのである。
留美湖にはどうして、詩歌の道を究める必要があるのか、理解できない。
況して、今の私に、何の役に立つというのだろうか。
「此処に通う理由が分かりませんねえ」。
と留美湖。
「何の役にも立たい。そう、考えているのでしょう」。
留美湖の心を読み取るように言うのである。
「今、直ぐに、貴女の為に成らない事を、遣ってみる。そんな、回り道があっていいと思う」。
と喜一郎。
「分からない」。
「晶子先生から、貴女の話を聞いた時、貴女の心の奥にある激情が、詩歌の世界に向いている。そんな思いに駆られたのです」。
「怒りや、強がりが、何になると言うのですか」。
と留美湖。
「貴女は、与謝野晶子を知っていますか」。
「よく、知っています」。
「内なる激情は、恋愛感情を高揚し、それが、やがて、詩歌や、文化を愛おしむ心を育ることが、多々あるのです」。
「私って、大恋愛をするタイプなんですか」。
留美湖は、苦笑いをした。
「そういう、捉え方も、あっていいのです。大恋愛をする人は、心の奥底に、激情を抱いているタイプなんです」。
喜一郎は、ほほ笑みえを交えて相槌を打つのである。
喜一郎は、確信を持った。
留美湖の、内なる激情は、詩歌への、素養、素質と成って大成への大きな力になってくれるであろう。それは、まるで心音でも聞くように知ったのである。
留美湖も、喜一郎の笑顔の中に、自身の未来を見たのである。
「先生」。
「喜一郎さんでいいですよ」。
二人は、美味そうに、ホットコーヒーをのんだのである。

佐和湖が、再び九条家を訪れたのは、梅雨の晴れ間の、青空を愛おしむような、外出日和の午後のことだった。
庭先の、紫陽花の花が、もう盛りを失いつつある色に染まっている。
九条家といっても本宅はない。喜一郎は、別宅だった所を、自宅として使っている。
戦時中、九条節子は(大正、皇后)は戦病軍人や、戦病人や、らい病人の求救のために、財産を投げ出しているから、最も没落した貴族といってもいいだろう。
それでも、喜一郎が、和歌を愛し、詩歌を愛し、日本の文学こそ、世界の最高峰に位置するとまで、そう語るのは、(和歌の九条)と謳われた、名こそ惜しむ、気概なのであろう。「先生」。」
「先生は止めてください。喜一郎さんでいいんです」。
「アドバイスを求めにきました」。
佐和湖の言葉には、まだ余裕というものがない。
喜一郎は、深呼吸をした。
「喜一郎さんから、色々と為になる意見を聞かせて頂きました。本当に有り難く思っています」。
「娘の留美湖さんも、わたしの所へ通うって来てくれています」。
喜一郎は念を押すように言った。
「そうなんです、そうなんですけれど、何故か、娘の心が読みきれなくて」。
「娘のことなら、何でも知っていたい、分かっていたい。そう考えているのではないでしょうか」。
と喜一郎。
「ハイ、多分そうだと思います」。
佐和湖は小さな声で言った。
「それは、親のエゴです。今一番大事なことは、娘さんが背負っている、重い荷物を、貴女も半分背負ってあげる。共に苦しんであげる。そう云う、心を持つことです」。
喜一郎は厳しく叱った。
佐和湖、「どうしたら」。
後の言葉が続いてこない。
「良き、相談相手になること。理解してあげること。安心させてあげること。それは、母親にしかできません」。
佐和湖は、目頭をハンカチで拭いた。
「喜一郎さん、やっぱり教えて頂かなくては」。
「うーん」。
喜一郎は暫らく思案していた。
「そうだ」。
そう言ってから、手を叩いた。「交換日記はいかがです」。
「交換日記ですか」。
「はいそうです」。
留美湖といえば、元々内向的で、交際が苦手な処がある。
会話を愉しむというよりは、音楽や、詩歌を静かに聴いて愉しむタイプである。
「言葉で表現できない思いや、胸のうち、そして、苦悩など、交換日記なら、少しづつ分かってくるのではないでないでしょうか」。
佐和湖に、少し笑顔が戻ってきた。
「そうだと思いますは」。
「最初のうちは、短い文章でも、絵でも、和歌でも、詩でも構いません。喜んで、付き合って下さいね。この、喜んで付き合うことが大切なんです」。

短編小説・交換日記はいかがです5

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                                        短編小説・交換日記はいかがです4




そして、翌日の午後。時は放課後のことだった。
晶子先生は、喜一郎にお礼の電話をいれた。
「九条さんのお宅ですか」。
「はいそうです」。
と弟子の登美子は応答する。
「喜一郎さんをお願いします」。
登美子は、喜一郎に伝える。
「佐和湖は立派な人ですよ」。
「そうですわねえ」。
確かに、佐和湖さんは、出産を経験し、自らの大病を乗り越え、そして、家庭不和にも見事に解決してきている。立派な母親であり、良く出来た妻というべきであろう。
晶子は喜一郎の話すことが最もだとおもった。
「でも、子供のことになると、どうして、あんなにも、心を乱してしまうのでしょうねえ」。
晶子は苦笑いしながら話すのだった。案外、問題点の、核心をついていると思えるのである。
「不登校という、難問。きっと乗り越えて行ってくれると思うのです。私に、佐和湖の力になるようなことがあるのでしょうか」。
喜一郎は、自分を必要とすることなど有るとは思えなかった。
それでも、晶子は喜一郎にお願いするのであった。
長い長い、電話でのやり取りであった。

その頃、古都留美湖は、どうしていたのであろうか。
「留美湖、上がってもいいかい」。
と川田孝子。数少ない友人である。
留美湖は、戸を開いて階下を覗き見た。
「どうしたのさあ、全然、学校に来なくなったじゃん」。
厳しい視線で留美湖を見詰めている。
「別に、言いたくないんだ」。
そう言ってから、窓から空を見上げている。
「理由もなしに、学校を休めるのか、羨ましいやつだ」。
孝子は冷たく言い放つ。
「分かりもしないくせに・・・」。
「ああ、分からない、分からない」。
これは、孝子の言い過ぎというものであろう。
苦悩とか、辛さ、怒り、惨めさ、というものは、敢えて本人が語らない限り分かるものではない。語ってくれたら、問題は半分、解決したと考えられるのである。
孝子は、室内を見回しながら、生活ぶりを観察してみる。
開かれたままの、国語の教科書が机の真ん中に置かれていた。
「真面目に生きてるじゃん」。
「モグラみたいに閉じこもっている」。
と留美湖。
「先生と何かあったのかい」。
留美湖は首を振った。
「親父と喧嘩したのか」。
留美湖は、又首をふった。
孝子は、三か月前のことを思い出していた。
あの時も、そう二十日ぐらい、学校をサボっていたのだ。たかが、二十日ぐらいの、不登校では済まない。成長期の少年少女にとって、歴然たる差が付くことは間違いない。
友人として、孝子は理解に苦しむばかりであった。
留美湖には、そんな孝子が余計に、煩わしかったのである。母親から、親友の孝子と比較される事も、辛いことだった。
「長くなっちゃ駄目だよ。早く学校に出ておいでよ」。
ため息のような、呻く様な、孝子の声。
「有り難う、良く来てくれたね」。
留美湖は、丁寧に礼をいった。
「友達でしょう、そうでしょ」。
「そうだね」。
良い友達を持つことは、果たして幸福なことなのだろうか。
本音をぶつけられない、そんな、危うさもある。
それが、問題の解決を遅らせる場合もある。
優秀な先生に、成績の上がらない生徒。
学業成績の優秀な友達に、出来の悪い仲良し。
それは、本人達よりも、周りの視線が、心をずたずたにすることがあるからだ。
学校も又、オンリーワンの世界であるべきではないだろうか。
留美湖が、九条の家を訪れたのは、母、佐和湖に背中を押すように、言われたからである。どうして、母があんなに、強くなったのか解からない。
考えられることは、晶子先生に会ったから?それだけでは無いだろう。九条さんという人に会ってから?母とその人は、何を話し合ったのであろう。留美湖を、行動へと決定づけたのは、晶子先生の、職員室からの電話であった。
「九条さんという方が、貴女に会うことを、とても楽しみにしています。是非、会ってあげてくださいね」。
「私に、合いたがっている?」。
留美湖には信じがたい言葉であった。
プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

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