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短編小説・旅情という名の詩集5

短編小説・旅情という名の詩集5


                         短編小説・旅情という名の詩集1
                         短編小説・旅情という名の詩集2
                         短編小説・旅情という名の詩集3
                         短編小説・旅情という名の詩集4


「旅人ではない、流離人ねえ、あなたが」
「そう、心が旅をする、流離ね」
と、由美子。
まるで人生に疲れ果てて、ここに辿りついたとでも言いたいのであろうか。
孝夫は、由美子の持つ心の強さからして、俄かには信じられないのである。
「ええ、恋に窶れて、愛に疲れて、旅路の果てに辿りついた町」
由美子の言葉は、決して暗いものではなかったけれど、人生の有るべき姿を求める、まるで遊子ですと言っているようでもある。

さて、二十代の終わりの島崎藤村は、長野県の小諸で、教師をしていたのである。
千曲川のスケッチは、第四詩集『落梅集』に収められている。
二人は詠う。
「暮れ行けば、浅間も見えず、歌哀し佐久の草笛、千曲川いざよふ波の、岸近き宿にのぼりつ、濁り酒、濁れる飲みて、草枕しばし慰む」(島崎藤村)
青春、サムエル・ウルマンに「青春とは人生のある期間ではなく、心の持ち方を言う」という名の詩がある。
青春は、取り戻すことのできない、生命の横溢した時代でもあるのだ。
由美子の言うところの『遊子』とは、故郷を離れた、文学と音楽と、教養ある人物が、道を尋ねて、旅をしているということだろう。
千曲川よ、由美子の美しさを浮かべて、川は流れる。

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短編小説・旅情という名の詩集4

短編小説・旅情という名の詩集4


                         短編小説・旅情という名の詩集1
                         短編小説・旅情という名の詩集2
                         短編小説・旅情という名の詩集3


流れゆく雲よりも、風よりも早きもの。
それは、心の流離というメロデーなるかな。
歌え、愛の賛歌を、平和の賛歌を。
この緑なす、世界にも、地球にも、流れゆくメロデーがあるはずだ。

とある日のこと。
北山孝夫は、長野県は、上田から長野市にかけての旅路の途上にあった。
「小諸なる古城のほとり、雲白く遊子悲しむ、緑なすはこべは萌えるず・・・」
(詩・島崎藤村 / 千曲川のスケッチより)
孝夫は詠う。
彼女も詠う。
声は共鳴して、千曲川の辺りを、まるで輝かせているようでもある。
「ここでの遊子というのは、旅人ということなんだけど」
「ええ、そんな表現が合っている様な流離いの旅路」
と、旅路の中で知り合った彼女は語る。
「君の名は」
「私は、白川由美子と言います」
「ありがとう、良い名前だね」
「良い名前。あなたは?」
「北山孝夫です。名は体を表すと言いますから」
「そう、まるで美しい人と言って下さっているようですねえ」
と、由美子。
度胸の良い言葉に、唯の流離の旅人とは思えない、人格、見識の高さに、この女性は、何者なのだろうかと、想像は膨らむばかりであった。
「どうしてあなたも旅人に」
「心が旅をしているから」
と、答えるのである。

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短編小説・旅情という名の詩集3

短編小説・旅情という名の詩集3


                         短編小説・旅情という名の詩集1
                         短編小説・旅情という名の詩集2


静かなる朝というよりは、平穏の内に迎えた朝だった。
今日は、予てよりの約束、そう、北条文子との約束である文芸部での講演である。
琵琶湖短期大学付属高等学校は、琵琶の海(みずうみ)を広大なるまでに内にして見下ろすことの出来る高台にあった。
「先生、準備は万全です」
と、村上文芸部長。
文子は、幸夫部長の人となりと、手配りを説明するのである。
三年B組、文子のクラスには、部員の他に外部の人も聞きに来ていたから、六十名は超えていただろうか。
満員の熱気が、孝夫先生の情熱を駆り立てる。
教壇から、
「芦ノ湖は泣いていた。捨てられた男と、捨てた女の悲しみを、まるでオブラートに包むように湖は泣いていた。霧の芦ノ湖、霧の中を走る遊覧船。その船上から手を振っている女性の姿が幽かにみえる。その女は、愛に生きた人なのだろうか。あの人は一途に生きようとしている人なのだろうか。霧の芦ノ湖は知っていた」
この様な切り出しから、孝夫の講話は続いてゆく。
泣いていたのは孝夫であり、捨てられた男も孝夫である。
「捨てた女には、捨てた女の悲しみがあり、捨てられた男には、捨てられた男の悲しみがある。中には、愛の終結の為に、捨てられるように、捨てられるように持ってくる男もいるけれども、如何か、皆様には、愛から逃げないで、愛の重さと、愛の深さに、訪ね歩いて欲しいものです。それが、人生ということだと思います。生き抜くとは、愛を尋ね歩く旅と言うことではないでしょうか。愛の賛歌、それが詩人であり、詩人の魂であると思います。でわ、これで」
孝夫は、深々と頭をさけ壇上を降りた。
「先生、送って行きます」
と、文子と副部長の東條太郎。
孝夫は丁重に断り校門を出た。
琵琶の海(みずうみ)を、長浜に寄りて見つめる孝夫。
彼は、数々の山河を尋ね歩いている。
哀愁の湖、諏訪湖。
郷愁の湖、三方五湖。
浪漫の湖、河口湖。
旅愁の湖、猪苗代湖。
彼の、山河を尋ね歩く旅は続く。

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短編小説・旅情という名の詩集2

短編小説・旅情という名の詩集2


                         短編小説・旅情という名の詩集1


振り向けば君がいた。
城郭を守る為に作られた水門川。
その中央にある、赤い中橋に君は佇んでいた。
「君の名は」
と聞く、北山孝夫。
行き過ぎたあと、何故か訊ねたくなった孝夫。
そこには、彼らしい茶目っ気があった。
「東京の銀座を歩いても通用する美しさだ」
ワンパターンなセリフではあるが、そこには、古き良き時代の銀座があった。
その人の名は、北条文子と言う。
地元の高校三年生である。
乙女の頃を過ぎて、まだ大人の女にならない、艶めかしい美しさが、詩人としてのロマンを掻き立てるのである。
孝夫は、島崎藤村の初恋の詩を朗読してみるのである。
乗って来る文子に、文学に対する高い素養を感じとったのである。
二人の会話は弾んだ。

孝夫が、文芸部に招かれたのは、ほんの数日後のことである。
日々の暮らしの中で、詩人は朗読する。
自作の詩もあるだろう。
翻訳された詩もあるのだ。
「山のあなたの空とおく、幸いわい住むと人の言う」(カ—ルプッセ)
詩人とは、哀愁の人なのか。
旅愁の人なのか。
書き上げる程に。
声は、悲しみのアリアとなりて、歌は、オペラにも似て、頬を流れる涙よ。
泣かないで、泣かないで、流す涙で迎える朝は、大空さえも泣き出すだろう。

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短編小説・旅情という名の詩集1

短編小説・旅情という名の詩集1

それは偶然から始まった。
彼、北山孝夫が、市内にある高校の文芸部に講師として招かれてからだった。
孝夫の講和は、淡々と流れて行った。
孝夫は大勢の人の前で話すことも、少人数の人の前で話すことにも慣れている。
それは経験からきている。
それでも、人の心に残るののは、対話でしかないと思っている。
北山孝夫は、作家であり、詩歌人である。
彼が歌い上げる詩には、熱烈なフアンが少なからずいる。
歌人として、短歌の結社に入っていたこともあるが、主に、大手出版社の投稿派作家として筆を執って来た。
五年前、感ずるところがあって、電子出版、インターネットを利用した、詩、短編小説の発表に乗り出したのである。
彼、孝夫のように、激情的で、情熱のままに、一気に書き上げるタイプには合っているのだろう。
孝夫が常々、言ってはばからないのは、日本では、詩人の評価が低過ぎる。
もっと高く評価されても良いのではないか。

とある日のこと。
彼の友人であり、同業者でもある、南原三郎との会話から。
孝夫は執筆業だけでは食っていけないから、個人事業者として、骨董品、古物品、リサイクル品の販売を行なっている。
「そう、詩の持っている良さは、私もわかっているつもりです」
彼、三郎は詩歌人ではないけれど、詩が大好きだと言う。
「これからも、書き続けていって欲しい」
「ああ、世界の最高峰は、何もオリンピックだけではないからなあ。科学界に経済界。芸術界に文学界もある」
「それで、それで」
「日本の文学界よ世界の最高峰を目指せ」
と、吠えたのである。

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プロフィール

白浜 砂夫

Author:白浜 砂夫
どうも ”しらはますなお” です。

岐阜県大垣市在住
昭和24年1月11日生まれ
67歳
B型

好きな歌人は、女性では与謝野晶子、男性では、島崎藤村、石川啄木です。詩や和歌や小説を書き始めて20年あまりになります。鹿鳴館を舞台にした小説を書いております。63歳にして一念発起してパソコンを始めました。ブログにも初挑戦です。

最新出版物
白浜砂夫の電子書籍




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